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第二章 第七十九話 〜坑道のエレベーター〜

 鉱山の入口ですら、もはや非常に暗かった。五歩進んで振り返ってみただけでも、かなりもやがかかっていて外が見えづらい。

 というか、何なんだ、このもやは? 前の時は海中のヒドロ虫のせいだった。でも今回は地上だ。よくよく見ると自分の手もすすのように黒くなっている。前回の初心者クエストでは、こんなことにはならなかった。少なくとも『コンフォート』のスキルがあって助かった。

 僕はロープを辿りながら、恐る恐る先へと進んでいく。暗視カメラの映像のようにとても見づらい――そして誰もいなかった。

 前情報によると鉱山の地下は二十階まであって、それぞれ横にも広がっているらしい。救助すると考えるとあまりゆっくりしてもいられないが、暗闇の危険性も相まって慎重にならざるを得ないのがもどかしい。ジレンマが募っていった。

 

 すると鉱山の線路の途中にいいものを見つけた――トロッコだ。運転席の向こう、坑道の奥側に荷台が見える。荷台は窪んでいるけど、そんなに深くはない。

 中には――やはり誰もいない。そもそもこのトロッコ、動くんだろうか? ひとまずロープは邪魔にならないように荷台に載せた。

 ただ、ふと思った。これ……もしかしてバックしながら運転しなきゃいけないの!?

 僕はとりあえず座席に腰をかけて、操作盤を見た。左手の前後に動くようになっているのが……マスコンかな? 右手の捻るものが……ブレーキなんだろうか?

 今世でも前世でも何ひとつ運転経験のない僕の体から冷や汗がダラダラ流れる。やってみるしかない。何かが起きたら、あとで考えるとしよう。

 マスコンはプラスマイナスゼロの場所にあるとでも言えばいいのか、中央にある。もしかしたら押し続けるか、引き続けるかしないとならないタイプのマスコンなのか。

 少しだけ力を入れて後ろに引くと、わずかに僕の背の方向に動いた。さらに強めに引くとトロッコは加速を始めた。

 自分の後ろを向きながらトロッコは進んでいく。途中で引っかかる黒いもやを振り払いながら。たまにブレーキのかけ具合なども調節して、順調に後進していった。

 

 最終的に線路の行き止まりに着いて、僕はトロッコから降りた。そこはレールが放射状に各方面に向かって広がっている円形状の部屋で、壁にはエレベーターが設置されていた。前回の初心者クエストの時にゲジゲジなどの残骸を運び出すのにお世話になった場所だった。

 

 だが、そこで異変に気づく。エレベーターの扉が何者かに破壊されていたからだ。扉は頑丈なものではなく、マジックハンドの集合体のような構造をしている金属製のフェンスだった。しかもぐちゃぐちゃにひしゃげている。しかもいちばん異常なのは、そこに向かって引きずられた跡が無数にあるということだ。嫌な予感しかしない。

 

 僕はエレベーターの下ボタンを押す。

 

ガコン――!

 

 幸いそれは動き始めた――しばらくすると、目の前で止まった。だが、その光景に戦慄を覚えた。

 

 かごの床板が破られている。

 

 鉱山の鉱石を運ぶ以上、相当頑丈に作らなければならないはずのエレベーターが、いとも簡単に破られていた。

 こんな真似ができるのは巨大なハサミを持ったあの蟹くらいしか知らない。

 

 しかし何度も言うがここは地上だ。

 じゃあ一体何がこの分厚い床板を壊したというのか。

 

 僕は床板の残った部分にロープと共に乗り、エレベーターを各階層ごとに降りることにした。

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