第二章 第七十八話 〜坑道への準備〜
鉱山入口の臨時キャンプでは続々と準備が進められていた。
「被害者が搬出されたらこちらに寝かせてくれ」
「各種医療危機、準備完了です!」
「敵が入口から出てくるかもしれない。攻撃態勢をいつでもとれるようにしろ。油断するな!」
ポツリ――ポツリ――
雨が降ってきた。すかさず神父様は手を天にかざした。
「『結界法術・天』!」
すると臨時キャンプの上に光輝く『盾』が出現した。雨は弾かれて横に流れた。
「神父様すごい! 結界法術ってそんなこともできるんですね」
「いえ、これくらいは朝飯前です。この強度であれば、一度作れば手をかざす必要もありません」
「そんな便利なものなんですね」
「ただ、法術にせよ、魔術にせよ、イメージが大切です。使えるようになるまでと、使いこなすようになるまでには時間がかかります」
「なるほど……」
これは僕の『スキル』でもそうだな。何にせよ『応用』が大切だろうし――
続いてギルド長が色々と装備を持ってやって来た。
「リベル、これが『魔術ヘッドランプ』と『魔術カンテラ』だ。かなり光量は明るいものにした――とは言え、この暗闇の正体次第だがな……」
僕らは入口の方を見た。だいぶ空が暗くなり、この前入ったはずの坑道は不気味なほど暗くなってしまっている。
「念のため背嚢には軽くて腹持ちのする食料と水も入れてある。笛もここに付いている。マスクは細かい結界法術が仕込んであって、防塵になっているし、ニオイも防げる――どうだ? 苦しくないか?」
ギルド長が僕のマスクを側面から引っ張ってくれた。
(大丈夫です!)
僕は大声で返事した――つもりだった。
「――とまあ、こもって声は出づらいが、ある程度聞こえるはずだ。まずは少し入口に足を踏み入れてくれ」
僕は坑道の入口の手前まで来た。坑内には以前まで見えていたはずの明かりは点いていない。だが目を凝らすと、かろうじて中の様子が見えた。そして、一歩、二歩、三歩と進む。ランプとカンテラのおかげなのか、ちょっとは見やすくなった。それを確認して、僕はみんなの場所に戻ってマスクをずらした。
「相当暗いですが、かすかに見えます。ランプもカンテラもないよりは役に立ちそうです」
「そうか……この装備でもほとんど見えないのか……よっぽどだな。今、学長も学校から呼んでいる最中だが、おそらく状況はほぼ変わらないだろう。すまないがリベル、お前だけが頼りだ」
しゃがんだギルド長が僕の肩をポンと叩いた。
「任せてください。きっと坑夫たちを助けて見せます!」
僕は自分の左胸をドンと叩いた。続いて神父様が何かを手渡した。
「リベル、これは『結界法術ロープ』です。ロープに結界法術が織り込まれています。これを辿りながら奥へと進んでください。一応光ります。そしてこの坑内の地図です。これもなかなか見ることはないかもしれませんが、念のためです。何かあったらまずはすぐに引き返すようにしてください」
「分かりました。ありがとうございます。じゃあ行ってきます!」
僕はロープ片手に坑内の奥へと向かった――
――グニュッ! グニュッ!
「ンー! ンンーー!!」
痛い! 痛い!! 俺の腹の中で何かが動いている! やめてくれ!
グニュッ! グニュグニュッ!
さらに動きが激しくなる。あまりの痛みに俺は涙も汗も尿も止まらなくなった。
「ンンン! ンンン!!!」
グニュグニュグニュッ!
「ンンンンン!!!!」
グパアアア――
激痛で悶絶しそうになる中、俺の体から何かが『孵った』。




