第二章 第七十七話 〜鉱山の悲劇の序章〜
「なんですって!?」
神父様が声を荒らげる。
「――一人も!?」
僕も焦る。一体何があったんだ?
「そうだ。いつもなら誰もが仕事を切り上げて帰ってくるはずの時間なのに、誰も帰ってこない。緊急事態だ。ヴォル、リベル、急ぎギルドに来てくれ」
ギルド長が扉から出て駆けていった。
「分かりました。リベル、行きますよ――と、その前に、途中まで作っていた夕食があります。フィオ、チロ、ネネ。よろしくお願いします。セイクルは手伝ってください――」
神父様もそう言い残して出ていく。
「行ってきます――?」
続こうとすると、僕の右手をセイクルに両手で掴まれた。
「行っちゃうの? 危ないよ? 死んじゃうかもよ――?」
彼女は今にも泣き出しそうだ。それを見た僕は自分の両手でセイクルの両手を強く握った。
「大丈夫。心配しないで。僕は強いんだ。ランクDの冒険者なんだ。必ず帰ってくるから待っていて。みんなも待っていて」
三人も涙を溜めながらコクンと頷いた。
「セイクル、行ってくるね――」
僕は三角巾の上から優しく撫でて笑顔を見せたあと、冒険者ギルドへと駆け出した。
「――リベル、来たか」
ギルド長がこちらを見た。壁にはこの辺り一帯の地図が貼り出されている。室内には既に神父様と何人かの冒険者と、そして職員が集まっていた。
「では確認するぞ。今日の夕方、辺りが暗くなり始めた時、本来なら続々と戻ってくるはずの坑夫たちが一人も戻ってこなかった。おかしいと思った見張りたちは、坑内に向かって叫んだが、返事がなかった。
そして、入口の奥はいつもと違って『漆黒のように暗かった』――魔術灯の明かりがあるにも関わらず、だ。緊急事態と判断した見張りたちは冒険者ギルドに通報した。ここまではいいか?」
彼女は振り返り、それに応じて総員が頷く。
「――こんなことは初めてだ。なんだ? 『漆黒のように暗い』って。しかも、坑内の坑夫は一切帰ってこないって……これでは探索も救助もできないだろ……!」
ギルド長が拳を握り締める。今の状態では何が起きているかも分からず、二次災害の危険性もあり得るからだ。
「私が行きましょうか? 結界法術による防御と回復法術による治癒、救助活動であれば適任かと――」
神父様が片手を挙げて名乗り出た。しかし、それを彼女は制した。
「ダメだ。もちろんそれらは頼りにしているが、視界がない状態だと何もできない。敵に襲われて防御できたとしても、突然落とし穴が開いて串刺しになったらどうする? その状態でも咄嗟に防御できるか?」
「しかし――!」
「あの、僕が行きましょうか?」
僕は大きく片手を挙げた。
「リベル! お前行けそうなのか?」
「リベル! 無茶です。何が起きるか分からないんですよ!?」
彼氏と彼女が同時に顔を見合わせる。そのままキスすればいいと思うが、そんな冗談を言っている場合じゃない。
「僕は暗視のスキルを持っています。どのくらいかというと、深海でも見えるほどです。この前も鉱山の奥でくっきりと見えていました。新人三人は暗いと言っていましたが。同行していたキャサリンは一緒にいたから分かりますよね?」
彼女(?)の方を向くと、彼女は深く頷いた。
「そして、僕は深海で暗いものや、黒いものと縁があるのか、相当戦ってきました。そういう意味でもうってつけだと思うんです」
「……分かった。では、今回の鉱山の探索はリベルに頼むとしよう。我々は入口で臨時キャンプを展開する。各自、取り掛かるぞ!」
冒険者ギルドが一斉に動き出した。
――ここはどこだ? 暗くて何も見えない――身動きも取れない。
「ンー! ンンーー!!」
口も塞がれていて声が出ない。手足はベタついている。
一体何があった? 立入禁止区域の手前まで、仲間たちと一緒にエレベーターで鉱石を運んでいて、今日は上がろうとした矢先、突然辺りが真っ暗になったと思ったらその状態になった――
ドスッ!!
「ン!! ンン!!!」
痛い! 痛い! 痛い!! 突然腹部に刺すような痛みが走る――違う! 本当に刺さっている!
グニュロッ!
何か俺の中に大きな塊が入ってきて押し広げられている!
助けて! ――誰か助けてくれ――




