第二章 第七十六話 〜教会と後遺症〜
「あ、リベル、おはよう」
「なかなか目を覚まさないから、ボクもいつも心配なんだよ」
「リベルは昔からそうだもんね――」
――ハッ!!
僕は目を見開いた。
激しい動悸。冷や汗も滲んでいる。
……? 僕は……何がどうなったんだっけ?
大体さっきのイメージはなんだ……? 一人は……セイクルっぽかったような。もう一人は……分からない。
ゆっくり上体を起こすと、いつもの教会の二階だった。
「うわ……汗ジミになっている……『コンフォート』!」
僕の服はすっきり爽やかになった。便利だなあ『コンフォート』。
と思ったら、布団もシミがついている。どれだけ汗かいていたんだ? 仕方ない、洗って干すか――いや、待てよ?
僕は自分の体を布団にくるんで、『コンフォート』をかけた。すると布団もすっきり爽やかになった。
「おお! これはいい!」
フカフカ、かつ、清潔な布団になる方法を編み出した。今度、機会があったら他のものでも試してみよう。
僕が階段から下りてくると、神父様が走ってきた。
「リベル! 目を覚ましましたか!」
必死の形相の彼にキョトンとする。
「あ、はい。おはようございます」
「……良かった――」
ふう、と神父様はため息をついた。
「どうかしたんですか?」
僕は尋ねた。
「どうかしたんですか? じゃないですよ! 二日も目を覚まさないで!」
「……えええ!?」
「一昨日、家に帰ってきたらセイクルはわんわん泣いているし、他の三人はオロオロしているし、肝心のリベルは青ざめたままピクリとも動かないしで大変でした。幸い、脈もあるし呼吸もしているから安静にさせていました――いや、まあ、原因は分かっていますが……」
「原因……? あああああ!! バイオテロ!! うわあああ!!!!」
僕の体はガタガタ痙攣しだした。『パラライズ』のスキルがあるから効かないはずなのに。
「鍋は動いているし、逃げようとしていたので結界法術で封印して浄化しました。悪霊は退治しましたのでご安心ください」
鍋……? 鍋って動くの……? 逃げる……? どういうこと……? そういえば何かスキルも獲得した気がするけど――忘れてしまった。
「ひどく混乱しているようですね――セイクルも毎回料理を作ろうとするのですが、こうなってしまうんです。特に今回はひどい。まあ、誰かに美味しいって言ってほしい、その気持ちは非常によく分かるんですけどね……」
「そう言えば、セイクルは……?」
「大変落ち込んでしまって、なかなか食事も摂ろうとしなかったので、どうにか説得して食べさせました。そのあとはずっとリベルに付きっきりでしたね。どうにか学校に行かせるのにも苦労しました。もうそろそろ帰ってくる時間ですね――」
「……そんなに時間が経っていたんですね……」
「おそらく、腕によりをかけた分、より一層凄まじい威力のものが出来上がったのかと思います」
「……」
ここまで来ると、とてもかわいそうになってくる。セイクルは誰かに喜んでほしいだけで、悪気はないのだから。
ギイ――
ふと教会の扉が開いた。俯いたままのセイクルを筆頭に、他の三人も帰ってきた。
「神父様、ただいま……って、リベル!? 目を覚ましたの!?」
セイクルは僕を目掛けて駆け寄ったが、すぐ近くまで来て、また俯いてしまった。
「ごめんなさい、リベル……もう……なんて言えばいいか……」
彼女は泣き出した。よほど心配してくれたのだろう。確かに彼女のせいではあるが、悪気があったわけではない――いや、若干の悪意はあったかもしれないが。
ポンポン――
僕はセイクルの頭の三角巾を優しく叩いて、笑いかけた。
「ありがとう。僕のために料理を作ってくれて。カレー(?)、美味しかったよ」
「……ホント?」
「うん。とても心のこもった料理だった」
嘘は言っていない。たとえ怨念がこもっていたとしても。
「……じゃあ、また作ってもいい?」
「「「「「それはダメ!!」」」」」
「うわあああん……!!」
セイクルがまた泣き出した――
バァン!!
突然、教会の扉が勢いよく開いた。
そこには息を切らしたギルド長が立っていた。
「レティア、どうしました!?」
神父様と僕が警戒態勢に入る。
「鉱山に入った坑夫が一人も帰ってこない」




