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第二章 第七十五話 〜愛の三角巾〜

「ふわあ、よく寝た……」

 冒険者ギルドでDランクに上がって喜んでいた僕は、カエルを初めとするたくさんの敵を斃し、かつ、その後片付けでかなり疲れていたのか、ぐっすり寝てしまった。

「あれ? もしかして誰もいない?」

 仕切りのカーテンを開けると、隣で寝ていたはずのチロも、女子たちも誰もいない。今日は神父様も出かけると言っていたので、教会はもぬけの殻なのか――

 

 僕はもう一度あくびをしながら階段を降りる。誰もいないから『コンフォート』で身なりも整えた。

――いや、台所に気配がある。しかも、深海で戦った黒い『瘴気』のようなものが漂っている。うっ――酷い匂いだ。

 階段に降り立った僕は、恐る恐る敵を確認する。すると、黒いもやの向こうに、薄っすらオレンジの三角巾が見えた。

(!! ここにいてはならない!)

 全身が一瞬で警戒態勢に入る。これはもしかしなくてもセイクルが料理を作っている最中なのか!? 起き抜けでお腹空いたとかいう感情は蒸発した。今は一刻も早くこの窮地を脱出せねばなるまい。

 僕は身を屈めたのち、一切音を立てないようにして慎重に匍匐ほふく前進を開始した。教会の大きな扉がゴールだ。


ギイっ――

 

(!!)

 不意に床板が鳴った。僕はゆっくりと振り返る。しかし、敵は気付いていないのか、台所で作業をしている。

(しめた!!)

 僕は扉の方に向き直った――が、そこにいるはずのない笑顔のセイクルが仁王立ちで待ち構えていた。

「リベル、どこに行くの――?」

「う、うわ、うわあああああ!!!!!」

 な、なんで!? そこにセイクルがいるはずはない! 僕は尻もちをついて腰を抜かした。危うく漏らすところだった。

「ねえ、大声出してどうしたの?」

 笑顔の彼女が迫ってくる。後ずさりする僕。

「いや、出かけようと思って――」

「ダメ」

「いや、ちょっと扉を開けるだけだから――」

「ダメ」

「……」

「……」

 

 僕は左前にフェイントをかけ、右前から素早くドライブをかける。しかし、平行移動で付いてくるセイクル。だが、扉への距離は稼いだ――自分の体をロールターンで切り返し、再度ドライブでゴールへと抜き去る――つもりだった。すると僕の体が宙に浮いた――!? この技は知っている――『ジャーマンスープレックスホールド』……!!

 

ドゴオオオン!!

 

 その日、町の教会は揺れた――

 

 

「……? ――!」

 気が付くと、僕は椅子に括り付けられて、テーブルに座らされていた。

「――!!」

 猿ぐつわまでセットだ。

「さあ、リベル、召し上がれ♡」

 蠢く色とりどりのモザイクがより一層の瘴気を放つ。セイクルが僕の口だけ開放した。

「プハッ! 何これ! 動いてる! 緑色! いや、紫色!!」

「カレーよ」

 カレーに謝れ! 下手に作ったほうれん草やナスのカレーでもここまでのことにはならんわ!

「さあ、召し上がれ。あーん」

「ちょ、ちょっと待って! みんなはどこに行ったの!? せ、せっかくならみんなでシェアしたいなって思って!」

「大丈夫よ。人払いは済ませてあるから。リベルの為に愛情込めて作ったんだから。ほら、あーん――」

「何を!? 生物を!? むぐゎ――」


ビクン! ビクン!

 

 口の中で何か動いてる――増えた!? やめて! 僕の中に挿入はいってこないで――

 

 

 意識が混濁する中。

 耳元で、無機質な声が響いた。

 

 脳裏に、うっすらと光る文字が浮かび上がる――

 

【ポイズン(付毒)】

 

 凶悪な兵器が誕生した瞬間だった。

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