第二章 第七十四話 〜昇級と不穏な目〜
「――凄まじいわね」
キャサリンがポツリと言った。
僕は彼女(?)の方へ駆け寄ってきて、確認した。
「残りのモンスターも片付けますか? それとも、他の三人も戦えそうですか?」
「……そうね。アンタたち、もう少し頑張れそう?」
三人がお互いに顔を見合わせる。そして同時に頷いた。
「リベルだけに頑張らせるわけにはいかない。俺らもやるぜ!」
「休ませてもらったしね」
「経験値、稼いどくか!」
――ふと考えたが、おそらくこの世界には経験値という概念はないはず。でも、数値化していないだけで言っていることは伝わる。
だいいち、もし経験値があるとしたら、上がるだけじゃなくて、しばらく経験していないと下がっていくものではないのか? ゲームだと便宜的に上がりっぱなしなだけで。
ただその場合でも、筋トレの筋肉記憶と一緒で、ある程度、再経験をこなすと、もとの腕前を取り戻せるというものなのかもしれない。『昔取った杵柄』というやつだ――
僕らは敵を殲滅させた。討ち漏らしがないか入念に確認して、元いた場所の坑夫に声をかける。
「ハ〜イ! 戻ったわよ!」
「おお! ご苦労さん! どうだった?」
「うーん……あまり良くないわね。数としては、前回の三倍くらいいたわ。しかも舌を自在に操るカエルも五匹」
「何だって!?」
「これからは警戒を強めるべきね。もちろん、ここの区域は立入禁止にはしておくけれど、同じフロアにも入らない方がいいわ。ひとまず敵を殲滅したから、残骸を運び出すのを手伝ってちょうだい」
「分かった。他の仲間たちにも連絡する」
「僕も手伝います」
「俺らも手伝うぜ、なあ」
「うん」
「任せろ!」
「――ありがとう。助かるわ」
僕らは次々と残骸をトロッコに載せては運び出した。キャサリンの指示で切断部位も教えてもらいながら。
「カエルはどうします?」
「うーん……どうしましょ……」
「私、冷気魔術で凍らせますか?」
「エルマちゃん! ナイスよ!」
――氷漬けにされたカエルの標本たちがエレベーターに上っていく。いずれ融けるだろうがないよりはずっといい。
「キャサリン、これって食べられると思います……?」
「……毒があっても困るから、ギルドに訊いてみましょう」
僕がなんともなかったということは、もしかしたらそんなに毒はないのかもしれないが、素人判断は危険だ。ヤドクガエルみたいに一匹で数十人分を死に至らしめるものも、世の中にはいるかもしれないし。
「ふう、これで全部ね。みんな、お疲れ様。特にアルト、エルマ、モカ。慣れていないのに頑張ったわね」
冒険者ギルドに帰ってきてすぐに、三人はヘナヘナとへたり込んだ。
「つ、疲れた……」
「いくらなんでも多すぎでしょ……」
「ウチも体力には自信があるが、さすがに疲れたな……」
残骸や素材は後ほど、坑夫たちがまとめてギルドに届けてくれるとのことだ。
「もちろんリベルちゃん、相当頑張ってくれたわ。カエルも一匹だけではなくて、五匹もいたのに一瞬でやっつけてくれたわね。感謝するわ。しかも、何なら水中の方がよっぽど強いかもしれないわね――」
「いやあ、慣れているので……」
僕が謙遜すると、三人はガックリと肩を落とした。
「あまりにも強すぎだろ。チビなんて言って本当にすいませんでした――」
「あんなに小さいのに――」
「でも意外にいい体つきしているぜ?」
褒められてんだか、貶されてんだか……
「大丈夫よ。三人ともあと一、二回でランクアップよ。今回のクエストで非常にいい評価にしたから。これからも楽しみね」
三人の顔が明るくなる。
「マジで!? やった!」
「嬉しい!」
「昇級だ!」
立ちながら両手でガッツポーズをする。疲れが吹き飛んだようだ。
「けど、さっき言ったように、まだあと一、二回はクエストをこなしてちょうだい。おそらく、その理由は各々薄々感じているでしょう?」
「「「……確かに」」」
「うん。よろしい。あ、聞くまでもなく、リベルちゃんはDランクに昇級ね。実力で言えばさらにその上だけど、様々な経験を積んでほしいのよ。もう新しいギルドカードは作ってあるからね」
「え!? ……やった!!」
僕も両手でガッツポーズをした。みんなが拍手でお祝いしてくれた。
――坑道の奥底、激しい川の流れをさらに進んだ先、そこには巨大な洞窟が隠されているが、誰も知る術はない。
暗闇の中には無数の紅い目が蠢き、とりわけ巨大な十六の目が輝きを放っていた――




