第二章 第七十三話 〜坑道の川に潜むもの〜
「おおお! みんなすごい!」
僕は拍手をした。あんなことができるなんて。
「はあ、はあ、どんなもんだ……」
「でも、体力も、気力も、消費するわね……」
「環境も、悪い……」
三人は肩で呼吸し、息も切れている。
「無理もないわね。坑内は暑くて湿度も高い。加えて空気も薄いわ。それに今回の敵は多いわ。初心者クエストにしては、ちょっとバテてしまうけど、いい経験をしてるわね――でも、まだまだモンスターはいるわ」
次はゲジゲジが迫ってきた――って、大きすぎないか? 脚や触角を含めると百五十センチはある。しかもたくさん――数十体はいる。気持ちいいものではない。
「じゃあ、三人は休ませてあげましょうか。リベルちゃん、お願いね」
「分かりました――」
僕はみんなの前に立って敵に向き直った。
ゲジゲジは床や壁、天井に回り込んできた。脚が多い分、素早い――まずは僕も牽制だ!
「『アロー』!」
両腕でガトリングガンのように撃ちまくる。すると敵に矢が無数に刺さる――が、全く怯まない。
「……牽制の意味、なかったかも……!」
僕は何百という脚が蠢く集団に突っ込んだ。同時に奴らも襲いかかってくる。
「『テア』!」
ズバズバズバッ!
どんどん切り刻まれていくゲジゲジたち。ゴキブリなどに比べて、軟らかい。顎があるはずだが、襲いかかられる前に手早く処理していく。もはやただの害虫駆除だ。
「すげえ……」
「あんなに大量の巨大ゲジゲジをもろともしないなんて」
「数匹ならまだ分かるが……」
「さあ、アンタたち。リベルちゃんのあとに続くわよ――」
ゴーゴー――
ゲジゲジの相手をしていると、いつの間にか坑道内の川のエリアに入っていた。かなり深そうで、流れも速い。これが奥の部分なのか?
――! 川の中に何かいる! 僕は咄嗟に飛び込み前転で躱す。
ビタン!
一瞬紫色の何かが横切り、ゲジゲジの死骸が素早く引き寄せられる――川面に目が見えた! 巨大なカエルだ! たぶん手足を入れると二メートルはある。ということは先ほどの物体は『舌』だ。さらに視線を奥へと辿ると、こちらを向いている顔があと四つはあった。
シュッシュッシュッ!
連続でリーチの長い舌が飛んでくる。そして僕はそれを次々と避ける。ついでにゲジゲジも掃除されていくから……いいことなのか? というか、カエルって動くものをなんでも食べるから、さっきのコウモリも捕食していたのかもしれない。
シュッシュッシュッ!
川の中にいて圧倒的に有利だと思っているのか、どこまでもこちらに遠くから攻撃してくる。
「『アロー』!」
矢を撃つ前に予備動作で警戒されるのか、その前には潜り、まだ別の場所から舌を使ってくる。
すると連続攻撃を繰り出していたモンスターたちに、一瞬考えたような間があった。そして五匹完全同時で舌を出してきた――しかし、嫌な予感がした僕は思い切り横に跳んで逃げた――次の瞬間、素早く直進していた舌はカーブを描き出した。
グオオオ!
「『テア』!」
僕は光の刃で舌を切り裂いた――つもりだった。だが、それすら変幻自在に避けられた。
「どうなってんの!?」
五匹のカエルどもが嘲笑う。挙句に両の水かきでひらひらと挑発してきた。
「……ムカついた」
僕は川に向かって走り始めた。キャサリンと三人が慌てふためく。
「ちょっと! リベルちゃん! 危険よ!」
「「「危ない!」」」
息を大きく吸い込み、そのまま止める。
ドボン!
敵どもが面食らって動けないまま、僕は『スキル』を起動する。
「『スウィム』!」
ドン!
急加速し、モンスターどもに肉薄する。急いで回避しようとしても無駄だ――
「『テア』!」
ザン――!
一瞬でカエルどもは真っ二つになり、その勢いのまま泳ぎ出た僕は坑道へと着地した。




