第一章 第七話 〜新たな変化〜
「リベル! そっちに行ったぞ!」
「任せて!」
ズドン、と重い手応え。
モリで大きな魚を突く。『スティング』を使えば一瞬だが、あれは対象を内側から破壊しすぎて食糧を台無しにしてしまう。今の僕には、こうした道具を使いこなすだけの『肉体的な余裕』ができていた。
サメが血の匂いに誘われて寄ってきた。
僕は『スウィム』を起動し、加速を乗せた膝蹴りを叩き込む。たじろぐサメの側頭部へ回り込み、さらに渾身の正拳突き。
ドン、という水の振動と共に、サメは絶命した。
「ずいぶんと様になったな」
「ブレブのおかげだよ」
「いや、俺はそんなに格闘技は上手くない。お前の努力の賜物だ」
僕は四歳になっていた。
この二年間、僕はあらゆることを試した。
水中で打撃を放てば、抵抗で威力は減衰する。それを逆手に取り、『スウィム』による爆発的な推進力を拳に乗せることにした。
当然、そんな速度で物体を殴れば、作用反作用で僕の小さな拳や脚はズタボロに砕ける。
だけど、それを『リカヴァー』で即座に完治させ、再び打ち込む。
その狂気じみた反復を続けた結果、僕の肉体は、水中でも地上以上の質量を持つ衝撃を放つまでになった。
「前から一番の戦士ではあったが、さらに磨きがかかった感じだな。向かうところ敵無しか?」
「いや、ブレブと初めて会った時に油断は捨てたよ。たまたま色々上手くいっただけで、僕もブレブもやられるところだったし」
「そうだな。いい姿勢だ」
「ただいま」
「おかえりなさい! パパ!」
ブレブは二年前に結婚し、今や三人の子の父だ。 魚人の子供の成長はすごく早い。
奥さんも含め村のみんなは、僕を本当の家族のように扱ってくれた。
前世で生命維持装置に繋がれ、指一本動かせなかった頃に比べれば、この自由な深海はあまりに『生きている』実感が持てる場所だった。
僕は村で『養殖』も始めた。
海藻を植え、牡蠣を吊るして育てる。換水口の仕組みを応用して強制的に水流を起こし、栄養を循環させる。そんな前世の知識を教えると、村の食糧事情は安定し、僕は村の発展に欠かせない存在として喜ばれた。
そんな凪のような生活の中、門の辺りが騒がしくなった。
そこにいたのは、腰から下が魚の——人魚だった。
「どうした? 何かあったのか?」
「あ、ブレブの旦那! 実は大変なことが……
え? 人間!? なんでここに人間が!?」
まさか僕の方が驚かれるとは思わなかった。言語が通じているのも『コンフォート』のおかげなのだろうけど、向こうのリアクションが強すぎて、僕が抱いた人魚への感動は十分の一以下になった。 泣きたい時に相手に引くほど泣かれると泣けない、アレだ。
「ええと、お前ら頭を冷やせ。結局何があったんだ?」
「旦那、それが城下町の近くの洞窟に巨大な蟹が住み着いてしまったんだ。今までにない巨体で、とてつもなく素早くて――兵士も次々とやられ、その中には王も含まれていて……」
「なんだって!? 王が……女王はどうなった!?」
「気丈に振る舞っているけど、女王もそろそろ限界だ。恥を忍んで、この村に助けを求めに来たんだ」
「事情は分かった。だがこの村も戦力を割けるほど多くはない……」
「――僕が行くよ」
「!? 君が?」
「リベル、お前大丈夫なのか?」
「いや、旦那、冗談じゃないよ。こんな小さい子供に何ができるって」
「気持ちは分かるが落ち着け。このリベルは村一番の戦士だ。もはや俺が数十人いても敵わない」
「はあ!?」
「僕がやらないと、その洞窟から被害が広がるでしょ。早いほうがいい」
「リベル、すまない。行ってくれるか?」
「うん、分かった。ブレブは奥さんと子供を頼んだよ」
村のみんなと挨拶を交わし、唖然とする人魚と共に、僕は城下町へと向かった。




