第二章 第七十一話 〜鉱山の入口〜
「ハ〜イ! 皆さん! ごきげんよう!」
キャサリンが入口の坑夫に声をかけた。
「おお! えーっと……誰だっけ……?」
「ちょっと! アタシの顔、忘れちゃったの? キャサリンよ!」
「いや、三人とも同じような顔をしているから訳分かんなくなって……」
「失礼ね。でもいいわ。見分け方を教えてア・ゲ・ル。ショッキング・ピンクの髪とローズピンクのルージュがアタシ。ミッドナイト・パープルの髪とダークバイオレットのルージュがアンジェラ。サンシャイン・オレンジの髪とコーラルオレンジのルージュがエリザベスよ!」
「……何だって?」
「――んもう!」
すごい。字だけで頭がクラクラしてきた。頭痛もする。
鉱山の入口ではトロッコのレールが敷かれており、そこで鉱石が運び出されていた……というか、思ったよりかなり小さい。透明で薄っすら紫色だ。水晶に近いのかな?
「こんなに小さいの?」
「そうよ。しかも小さな魔法鉱石に強い魔法力を流すと割れることも多いのよ。大きな魔法鉱石だとそんなことはないんだけどね。だからこそ、より貴重なのよ。
ただ、小さな魔法鉱石は生活に使うには十分役に立つから、いずれにしても貴重ね」
なるほど。僕には魔法力がない――けれど、そういうのがない人でも生活が潤うためには、こういった鉱山が重要になってくるのか。
「さあ、先を急ぎましょう」
坑夫の案内で、僕らは木でできたエレベーターに乗る。それを降りてしばらく歩くと、二重に閂がかけられた巨大な両開きの扉が出現した。
「……立入禁止、って書いてあるな」
アルトが呟いた。坑夫が続けて話す。
「普段はな――この先の行き止まりにモンスターが出てくる川がある。そのあたりを殲滅してくれ。合図があったら俺らはその死骸を運び出す。それまではこの扉は開けておくからよ」
「因みに炎系や毒系の魔術は禁止よ。もしガスが漏れ出ていて引火したり、密閉空間で充満したら大変なことになるでしょ?」
キャサリンの注意事項を聞いて、僕らは息を呑んだ。
「分かったら先に進みましょう。油断したらダメよ」
彼女(?)がそう言い終わったあと、坑夫は重い閂を外して扉を開いた。
その先の坑道は少し薄暗い。だが、十分に周囲が見渡せる明るさだ。ところが――
「かなり暗いな」
「ベタベタするわ……湿度が高いのね」
「しかも暑くねえか?」
三人はもはやしんどそうだ。そうか、僕は『コンフォート』もあるし、『ナイト=ヴィジョン』もあるから全然気になっていなかった。
「リベルちゃんは平気そうね」
「はい、ちょっと特殊な環境で育ってきましたから」
「素敵ね――!」
バチン!
キャサリンがウインクしたので、僕は全力で屈んだ――
ジュッ!
……え? 壁の水分が蒸発した!? というか、当たり判定あったの!?
「――火気厳禁って言ったじゃないですか?」
「いやだわ、リベルちゃん。ただの『アツいウインク』よ。だから引火もしないわ」
屁理屈すぎる。嫌なのはこっちだ――ということは、さっきのアルトに対しても、実際にダメージ受けていたということか? なおさら避けて良かった……
「そう言えば、三人は知り合いなの?」
「ああ、そうだぜ。もともとは学校の同級生だ」
「他の職業も考えたけど、冒険者になってみたくて」
「前からこの三人で実技も組んでいたしな」
「へええ。みんな何歳なの?」
「みんな十四歳だぜ。もうすぐ十五になる」
「なるほど。みんな若いね!」
「……? 普通だろ?」
「……え? 因みに、何歳で成人なの?」
「十五歳だろ」
「ええ!? そうなの!?」
「……?? おかしなやつだな――お前、どっから来たんだ……?」
「あ、ハハ……」
僕は愛想笑いをした。確かに、こと生命の危機を感じる世界では、成人するのは早い方がいい。いつ死んでしまうか分からないからだ。だから深海でも『子種』って言っていたんだろうし。
「さあ、おしゃべりはここまで。敵のお出ましよ!」
奥から無数の敵が湧いてきた。




