第二章 第六十九話 〜早朝の教会〜
「リベル……謀りましたね?」
「え? 何のことでしょう?」
翌朝、早めに起きた僕が階段から下りてくると、背を向けて朝ごはんの準備をしている神父様にボソッと言われた。
僕は口笛を吹く……と言いたかったが、口笛吹いたことなかったから、スカスカの音が鳴った。
「……それで、上手くいきましたか?」
「何がです?」
「何が……なんでしょうね?」
よくよく考えると何が上手くいくんだろう? というか、付き合うって何だ? 女の子と付き合ったこともないから全然ピンと来ない。
「そっちが困ると、こっちも困るんですが……とりあえず、レティアと付き合うことになりました」
「おお! 良かったですね……!」
僕は他のみんなを起こすわけにいかないので、小声で喜んだ。
「しかし……未だに後ろめたい気持ちもあります」
「亡くなられたお嫁さんのことですか?」
「……レティアから聞いていましたか。そうです。私だけ幸せになってもいいのかと思って――」
「ダメなんですか?」
「え?」
「いいんじゃないですか? 幸せになっても」
「レティアにも似たようなことを言われましたが……」
「前世の言葉でこんなものがあります。『過去』『現在』『未来』。これはこちらの世界でもそうですけどね」
「……」
「『過去』は『過ぎ去っている』から『もうない』。『未来』は『未だに来ていない』から『まだない』。じゃあどこにあるのか? 『現在』しかないんです。
お嫁さんが亡くなったのも『過去』です。もちろんそれは素晴らしい想い出です。それは大切にした方がいい。でも、『現在』じゃない。大切なのは『未来』に向かって、今、何をどうするかじゃないですか?
実際に神父様とギルド長がどんな感情でどうなったかは知りません。でも、『過去』に引っ張られて『現在』に影響を及ぼすのであれば、それは二人にとっても、もったいないことだと思うんです」
「……」
神父様の手が止まって、こちらを振り返った。
「……そうですね。まさか、神父である私の方が諭されるとは……もう少し、前向きに考えましょう。レティアのことも、もっと真摯に向き合わなければならないですね……」
「そうですよ。あれほど一途なギルド長が密かにずっと神父様のことを想い続けていたんですから――って、神父様! 焦げてる!!」
「え!? あ、あああ!!」
「――今日の目玉焼き、黒い……」
セイクルがボソッっと呟いた。
「ごめんなさい。コゲコゲの部分は、どうか取り除いてください」
神父様は申しわけなさそうにしょんぼりしている。僕にも責任があるのでしょんぼりしている。
するとフィオがみんなに明るく語りかけた。
「大丈夫よ! セイクルの目玉焼きは『炭』にしかならないからよっぽどマシよ!!」
チロとネネが頷く。
バァン!!
「そ、そんなことないもん!!」
セイクルがテーブルをぶっ叩く。みんなの皿が一瞬浮いた。
僕は神父様に小声で話した。
(そんなにひどいんですか? セイクルの料理は)
(はい。『過去』も『現在』も『未来』にも影響を及ぼすほどに……)




