第二章 第六十七話 〜ギルド長の悩み〜
ゴキュッゴキュッ――!!
ものすごい勢いで酒を飲むギルド長。ワンショットの注射ですらもっとゆっくり入れなきゃならないのに、そんな一気に飲んだら……
「リベル、飲め! 俺は竜人だから、酒には強いんだぞ」
「じゃ、じゃあ……」
僕も少しずつ飲み始めた。でも、『ファドル』があるから全く効かない。甘みもあるけど、やっぱりお酒だから苦い……
「お前、本当に酒が効かないのか。でもなんかかわいそうだな……この楽しみが分からないなんて」
それはそうだけど、僕はまだ年齢で言うと子供だ。その状態で『ファドル』がなかったらそもそも一滴も飲む気はない。本格的に飲むにしてももっと先の話だ。
「ギルド長、今お酒飲んだら、これからの業務に支障が出るんじゃ……」
「いや、今日は大丈夫だ。もともとチャッチャと終わらせてから休むタイプだしな。というか、俺ばかり飲んでいるな……」
「今のところ、僕がお酒飲んでも『もったいない』だけなんで……」
「――そうか」
彼女は寂しそうな顔をした。僕はお酒じゃなくさっきの果実ジュースを飲み始めた。甘くて美味しい。
「ギルド長は普段からお酒飲むんですか?」
「ああ」
「酒場でですか?」
「いや――ほとんどギルドの仕事部屋だな。一服時にも飲むし。酒場で飲むのはたまにだな」
なるほど。ギルド長にとって『コーヒー』みたいな感覚でもあるのか。
「じゃあ一人で飲むんですか?」
「……そうだな。一人だ。どうしても上の立場だと、なかなか誘えないし、誘われないからな――」
「神父様とかはどうですか?」
ブフォッ!!
ギルド長が吹き出した。
「な、な、なんでそこでヴォルが出てくるんだ!?」
「いや、お互い名前呼びだし、仲がいいのかと思って……」
「ああ――うん――まあ――そうだな――」
全部の奥歯にものが詰まったような言い方だ。
「え? 仲悪いんですか?」
「いやいやいや! そんなことはない! ただなあ――」
「まあ、聞けないこともあるでしょうし。決して無理にとは言いませんよ」
「うん――まあ――隠していることでもないんだが――」
「はい」
「結婚してたんだ」
ブフォオオッ!!
「ゲエッホ! カヒュッ……カッ!! ウエッホエッホ……!!」
「だ、大丈夫か!?」
「ぜ、全然大丈夫じゃないです……!」
目も鼻も喉もすごく痛い。多分耳の近くまでも上ってきた。
「ち、違うぞ? 結婚していたのはヴォルだぞ? 俺はまだしていない」
「……え?」
彼女の顔を見た。涙目なので視界がぼやける。
「ヴォルと俺は幼なじみなんだ。あいつは昔から神聖法術――特に結界法術に秀でていて、その才能を伸ばすために神聖皇国へと修行に行ったんだ。そしてその数年後、恋人と一緒に帰って来て、このベルグハーフェンの教会を継いだ。そして二人は結婚した」
「え――?」
「二人ともお似合いだった。幸せそうだった。ただ――病気で死んでしまった。もともと体が弱かったんだ。回復法術で延命していたぐらいだったが、それでも力尽きた。嫁さんの葬式を自分でやったあいつに対して、かける言葉が見当たらなかった」
「そうだったんですか」
「その後しばらくして、孤児として教会で預かることになった子が出た。それがオレンジ色の三角巾を髪に着けていた――セイクルだ」
ギルド長はお酒をぐいっと飲んだ。知らなかった。神父様にそんな過去があったなんて。
「それでギルド長は神父様のことが好きなんですか?」
ブフォッ!!
「ウエェエッフォ! ゲホッ! ゲホッ!」
彼女の口から虹がかかる。マイナスイオン(アニオン)が満載だ。
「な、な、な、何を言い出すんだ!!」
両手足と尻尾をブンブン振り回して赤面する。
「いや、さすがにそりゃ分かりますって……」
「う、うう、そ、そんなことはない!」
「じゃあ嫌いなんですか?」
「そ、そんなことは……ない」
「じゃあ好きなんですか?」
「う、うう……好き。大好き」
(ぐはぁ……!! な、なんだこのかわいい生き物は……!)
僕は必死に唇を噛みしめる。
「だ、だって、昔から頭も良くて強くてカッコよくて、でも幼なじみでそんな感情が沸かなくて、でも修行に行った時に自覚してしまって、後からどんどん好きな気持ちが膨らんでいったと思ってたら、数年後に彼女を連れて来て結婚もしたんだぜ? 感情が迷子になってそれで変に声をかけるのも不謹慎とか孤児はいるしとか色んなことを考えていたら、だんだん時間だけが経っていって……うわーん!!」
泣き出した。これに関してはさすがにかわいそうだ。
「それで――どうするんです?」
「……え?」
「アタックしないんですか?」
「お、俺だってしたいよ……でも接点がなくってさあ!」
それはそうだ。かたや冒険者ギルド、かたや教会にずっといるんだから。
「できる範囲であれば協力しますよ」
「……え?」
「と言っても、それとなくです。あまりにも不自然なものやわざとらしいものは手伝えませんから」
「ありがとう! リベル!!」
彼女の胸は柔らかかった。




