第二章 第六十六話 〜ギルド長と狩り〜
「お、リベル! 来てたのか」
「ギルド長、こんにちは」
ギルド長が二階から姿を現した。相変わらず目のやり場に困る服だ。
「今日はどうしたんだ?」
「ランクEのクエストを受けに来たんです」
「おお! そうか。何をやったんだ?」
「掃除とドブさらいと薬草採集です」
「ほう――」
ギルド長は受付のお姉さんとオネエさんたちを見た。それぞれが軽く頷く。
「……よし。リベル、装備を整えろ。一緒に狩りに行くぞ。ついでに腹ごしらえだ」
「ええ!? いいんですか!?」
「ああ。お前は見込みがある。早いに越したことはない。そろそろ昼メシの時間だしな」
うわあ、やった! 地上での狩りなんてやったことないから楽しみだ。
ザッザッ――
僕はギルド長に連れられて、ギルドの裏山の道を歩く。前に神父様が「裸足じゃなんだから」ということで靴をくれて良かった。
「リベル、歩くのはキツくないか?」
「全然平気です」
「――さすがだな」
「泳ぐのと別の大変さがありますが」
「……うん?」
しばらく歩いて僕ら二人は遠くの林に鹿を見つけた。
「よし、あいつならそんなに攻撃的でもないし、うってつけだろう。ただ、ツノと突進には注意だ。しかもこの辺の鹿は魔術を使って高速で移動する。気を付けろよ」
……それは十分に攻撃的だと思うのだが、どうなんだ?
「ところで、どこを狙えばいいとかありますか?」
「ああ、できれば首がいいかな。次いで頭、心臓や肺だ。これは毛皮やツノを有効活用するための優先順位でもある」
「首は切断しても?」
「うーん、場合によるかな。どこに何を持って行くかによる。今回はメシを食いたいからな」
「分かりました」
僕はそろそろと鹿に近づく。葉っぱを何枚か落とした。よし、ここは風下だ。鹿が下を向いた。今だ! 右手を獲物に向けた――
「『アロー』!」
ドスドスドス!
鹿の首に三箇所、光の矢が刺さった。巨体が倒れた。
「やった!」
僕はガッツポーズをした。
「おお!」
ギルド長も声を上げた。
「……まさか首に三連続の射撃で獲物を斃すとはな」
「上手くいって良かったです」
「てっきり斬撃を使うと思っていたんだが、とんでもないな」
「このあとどうします? 沢とかありますか?」
「ああ、あるぞ。案内しよう――」
僕は鹿の頸動脈を切って、血抜きをした。
「お前、鹿などの獲物を仕留めたことはあるのか?」
「地上ではないです」
「……うん? 地上では?」
「はい。ずっと海中にいましたから」
「……この前のは聞き間違いじゃなかったのか――じゃあ、海中では……?」
「サメがおもちゃでした」
「サメのおもちゃじゃなくて!?」
ほう、そう来たか。
「上手いですね、ギルド長」
「い、いや、シャレを言おうとしたんじゃなくて、つい口に出た……」
僕はギルド長に皮の剥ぎ方や捌き方を教わり、串打ちした。そして魔術コンロで火を熾したのち、塩胡椒を振りかけて焼いた。
「良かった。そんないいものがあるんですね。てっきり僕には使えないかと思いました……」
「まあ、魔法力枯渇や適性、得手不得手など、色んな場合があるからな。それでも火が着けられるように工夫されているんだ。まあ、リベルならそのうち、工夫次第で勝手に火を熾しそうだが」
やがて美味しそうな鹿肉の串焼きができた。二人でいただきますを言って、かぶりつく。
「! 美味しい! 焼いた肉の味だ!!」
「……本当に過酷な状況下で生きてきたんだな――俺は酒を飲むから、お前はこれでも飲め」
瓢箪を携えたギルド長は、僕にはスキットルをくれた。
「これは何?」
「果実の搾ったもの――ジュースだ。お前には酒はまだ早いだろう」
「あ、僕、お酒飲めます。酔いも効きません」
「……はあ!?」
「深海には『酩酊クラゲ』という酔っぱらうための嗜好品があって、そこで酔いが一切効かなくなりました。他の人たちがどれだけ酔っても僕には効きません」
「そ、そうなのか……いいんだか悪いんだか」
「だから、勝負するまでもなく、僕の勝ちです。楽しくもないですが」
カチン――!
ん? 何の音だ? こんな山林の中でそんな音がするわけがない。魔術コンロの不具合かな?
「お前……言ったな……? こんなコケにされて勝負しないわけがない――!」
ギルド長は袋から瓢箪を合計で八本取り出した。これ……一本あたり八百ミリリットルくらいないか?
「リベル! 飲め!!」
謎の対決が始まった。
(※この物語はファンタジーです)
(※現実のお酒は二十歳になってから)




