第二章 第六十三話 〜教会のトラウマ〜
「リベル、カッコよかったね」
「神父様と学長相手に普通は戦えないよ」
「僕も体鍛えなきゃ」
「火の球で目が覚めた――」
恥ずかしい。全く目立つ気はなかったのに……
僕とみんなは神父様の夕食作りを手伝っている――いや、間違えた。セイクルだけはその他の雑務をこなしている。なぜなんだろうか。
「今日は座学なはずじゃなかったの?」
「そうだったはずなんだけど、いきなり校内放送が流れ出して、『特別に実技の授業を始めます。窓は開きませんので、仲良く観てください』って」
ひどすぎる。僕だけ知らないドッキリだ。
「神父様は今日の僕の模擬戦、どう思いました?」
「リベルは非常に筋がいいです。まだまだ伸びしろがあるので、どんどん強くなりましょう。ギルド長とも模擬戦か、あるいは共闘することもあるかもしれません」
「でも結界法術は使わなかったですよね? 何故です? 余裕ですか?」
「いえいえ違います。結界法術を使うと戦術がまるで変わってくるので、今回は使わなかっただけです。時間も押してしまうので。後日、ちゃんと見せますよ」
今日の夕食のメインはロールキャベツだ。すごく美味しそう。少なくとも水中では食べられない。
「ロールキャベツって結構作るの大変なんだ――手間がかかるんだね……」
「そうよ。今回はパスタで巻いたわ。カンピョウでもいいんだけど」
「この世界にカンピョウってあるんだ……」
「うん? 何か言った?」
「い、いや、別に」
フィオは料理が得意なのか、慣れた手つきでキャベツで肉を包んでいた。
「楊枝で留めたりしないんだね――」
ピタッ!
みんなの手が止まった。
「……え? 僕、なんか言った?」
「い、いや、違うのよ。リベルは悪くないの。前に神父様が用事で外出していた日に、どっかの誰かが『私が作るから任せて!』ってロールキャベツ作ろうとして、楊枝じゃなくて『まち針』で留めたの……」
「はあ!? 危ないじゃん!」
「そう。だから極力、私と神父様、あとチロとネネで料理を担当してるの」
ということは残り一人は――
「だってしょうがないでしょ! 楊枝なかったんだから!」
「普通はその時点でロールキャベツ作らないのよ! やるにしてもさっきみたいにパスタ使うの!」
「食べる寸前に抜けばいいじゃん!」
「抜くの忘れて危うく私の口の中に刺さるところだったのよ!」
これは――ドン引き案件だ。世の中には本当に料理音痴な方が一定以上いるという……
「フィオのバカ! ……ごちそうさま!」
セイクルは自分の食器を台所まで片付けたあと、軽く水で流して二階に駆けて行った。
「……育ちがいいなあ――仕方ない。先に僕も片付けてからセイクルの元に行くか。ごちそうさまでした」
僕は二階へと向かう。一階に残った四人の会話が遠くなっていく。
「私、悪くないよね?」
「うん、悪くない」
「針怖かった――」
「リベルは達観しすぎですね――」
褒められているのだろうか?
二階ではすでにカーテンが仕切られ、セイクルは布団をかぶっていた。僕は彼女の元へ向かう。
「まだお風呂入ってないのに寝ちゃうの?」
「もう寝る! というか、こっち来ないで!」
「よしよし」
僕はミレーナにやっていたように後ろ向きに寝ている彼女の頭をなでた。
「ぐすっ……あの時は神父様がいないから、みんなに美味しいものを食べさせてあげたかっただけなのに……」
「ああ、善意が空回りすることってあるよね……僕はまだ料理が作れないから、やろうと思っただけで偉いよ――」
そう言い終わったあと、いきなりセイクルが布団からガバっと飛び起きた。
「じゃあ! 今度、私がリベルの料理作って食べさせてあげる!」
僕は満面の笑みでこう言った。
「それはイヤ」
顔面に枕が飛んできた。




