第二章 第六十話 〜港町の学校〜
「ここが……学校?」
「そうです。リベル、一緒に学長に挨拶しますよ」
僕は生まれて初めて学校に来ていた。前世でも初めての経験だ。二階建てで広くて、頑丈そうな木造の建物だ。僕と同じ生徒たちが次々と登校している。
「じゃあね、リベル。教室は別になるかもだけど」
セイクルたちが奥へと消えていった。
「そうなんですか?」
「はい。おそらくそうでしょう。しかし、クラスが上がるに連れて、また別の教室に変わっていくと思いますので」
ん? どういうことだろう? どういう仕組みになっているんだ? 一般的だと思っていた学校と違うのかな? ハテナばっかりだ。
「こちらが学長室です――まあ、たぶん在室しているでしょう」
僕は緊張してきた。学校が初めてなら、学長室に入るのももちろん初めてだ。
コンコン――
神父様がノックをする。
「はい――」
声が聞こえた。
ガチャ――
「失礼します」
「失礼します……」
神父様のあとについて行く。
「おや……ヴォルフレイグ、ようこそ。新しい孤児ですか?」
玉ねぎ頭の背の小さなおばあちゃんが椅子から立ち上がった。
「そうです学長。名をリベルと言います」
「リベルです。よろしくお願いします!」
「よろしく、リベル。私が学長のグラマリーです」
彼女がお辞儀をすると、銀髪に紫色のシュシュで頭頂部を留めているのが分かった。
「ここに来たということは、この学校で学びたいということでよろしいのですか?」
「――はい! 今まで学校に行ったことがなくて、学べるものがあれば勉強してみたいです」
「ふむ、なるほど……では、入学テストをしましょうか」
「テスト!? どんなものですか?」
「別に身構えなくても背伸びしなくても結構です。本来の実力が知りたいのですから。座学の言語学、数学、科学、社会学。そして実技の魔術、法術、格技、芸術、それぞれで適性を見いだし、それを伸ばすのが目的です。今日、他にテストを受ける子はいないようなので――私が受け持ちます。座学はここでしちゃいましょうか」
本当にテストなんて受けたことがないからドキドキしてしまう。
「まずは『国語』です。リベル、自分の名前は書けますか?」
「い、いえ、書けません……」
僕の体から汗がダラダラ流れた。そりゃそうか、普通は書けるものなんだ――
「リベル、恥じることはありません。誰だって最初は書けないものです。人によって様々な理由があるのですから。そして、私は『普通』という言葉が大嫌いです。誰が決めたんですか、そんなもの。少なくとも長年、学長を務めてきた私は決めていません。普通以外は『異常』ですか? その考えこそが異常です。
もちろん優劣や順位は必要なものです。しかし、そこから切磋琢磨し、お互いが過去より今、今より未来へと成長することこそが重要なのではないでしょうか?
今、リベルは名前が書けません。でも、前までがそんな境遇であったのなら自然なことではないですか? この先、リベルという名前を書けるように、あるいは読めるようになったら、便利になると思いませんか? 社会の様々な人との交流がスムーズになると思いませんか? それが本来の『教育』です」
「……はい」
僕は泣きそうになった。ここまで語ってくれる人はいない。
ふと神父様に目をやると、彼は優しく微笑みながら、深く頷いていた。
「――そして、あなたは文字がまだ書けない読めないだけで、私から発した言葉はしっかりと理解している。あなたは頭のいい子です。これこそが『実力テスト』です。では、他も続けて行きましょう」
僕は涙をぬぐった。




