第二章 第五十三話 〜港町の教会〜
僕は桟橋を渡ってこのベルグハーフェンの町を歩いた。すごい、石畳がある。
「そんなに珍しい?」
「珍しいよ。初めて見る景色だ」
「そうなのね。私にとっては馴染みの場所でしかないけど」
本当に珍しいものばかりだ。港なんて一度も見たことがない。初めて来た。
階段を上ると円形の広場に出た。そこには出店があり、色々なものが売っている。魚介類も肉も野菜、果物などが立ち並ぶ。
「うわあー!」
「本当に珍しいのね。子供みたい」
「いや、子供だし」
「そういえばリベルって歳はいくつなの?」
「えっと、たぶん七歳くらい」
「……何そのたぶん、って」
「いや、はは……セイクルは?」
「私は九歳よ。私の方がお姉ちゃんね! お姉ちゃん、って呼んでもいいのよ!」
「分かった。セイクルお姉ちゃん」
「――っ! や、やっぱりお姉ちゃん呼びはダメ! セイクルでいいわ」
「? じゃあセイクルって呼ぶね」
一体何なんだ? まあいいや。
僕らは広場を真っすぐ突っ切って、教会へと進んだ。てっぺんには雪の結晶やアスタリスクのような模様がある。
「神父様、ただいま!」
「おやセイクル、お帰り……ん? 誰だね? その子は?」
「この子の名前はリベルよ――」
ダダダダと階段を上る音が聞こえた。
「おや、行ってしまった……」
「はじめまして。リベルって言います」
「はじめまして。この町の神父です。リベルはセイクルのお友達かな?」
神父様は眼鏡をかけた、狼のような獣人だった。
「いや、出会ったばかりで、まだ友達ですら……」
「何? そんなことってあるのかね? 拾ってきた犬や猫じゃあるまいし」
「まあ、色々ありまして……」
「――そうよ! リベルはどこから来たのよ!」
またダダダダと下りてきた。すると他の足音も聞こえてきた。
「セイクル、うるさい――」
「僕、まだゆっくりしていたかった……」
「ふあああ」
「フィオ、チロ、ネネ、そろそろお祈りの時間ですよ」
「「「はーい」」」
三人が同時に返事した。そして、続けて僕の存在に気付いたらしい。
「――!? 男の子!?」
ウサギの獣人の女の子。
「え!? セイクルの彼氏?」
ヤギのような獣人の男の子。
「違う! リベルとは知り合ったばかり!」
セイクルが反論する。
「……ナンパ?」
羊の角をしている女の子だ。
「どこで覚えてくるのよそんな言葉!」
彼女が憤慨する。
「冒険者?」
「船乗り?」
「酔っぱらい?」
「……どいつもこいつも」
「はいはい。みんな、お祈りを始めますよ? よろしければリベル君も一緒に」
「わかりました」
僕は神父様と同じポーズを取って、祈り始めた――でも僕は一体、何を祈ればいいんだ? みんな真剣だし無口なので言い出せない……。
やがて神父様の右手が青い光を帯び始めた。すごい、そんなことできるんだ。と思ったら、周りの四人もかすかではあるが光り始める。もしかしてこれが『魔法力』?
しばらくするとみんなポーズを解いて、立ち始めた。
「――リベル君、こんなこと言うのは申しわけないですが、いずれ分かることです。もしかして君は……」
「あ、僕、魔法力がないみたいです」
「!!!!」
他の四人がドン引きしている。
「嘘でしょ……?」
「そんな人がいるの?」
「今までどうして来たの?」
「大丈夫?」
でも心配してくれるだけありがたいか。
「ああ、僕なら問題ないです。今までもその状態で、ずっと海中で暮らしてきたので」
「!!!!!」
僕以外の五人がドン引きしている。
「リベル君、それは本当ですか?」
「そんなわけないじゃん! 嘘ついてるんでしょ」
「そうだよ。生きていけないよ」
「嘘つき?」
まあ普通はそんな反応になるよね――と思ったらセイクルだけが違った。
「……もしかして、今朝に私と会った時って――」
すごい、思考に柔軟性がある。
「そう。海底からこの港町に来て、一番最初にセイクルに出会ったんだよ」
「!!!!」
もちろんみんな半信半疑だ。信じる方が無理がある。それならば見せた方が早い。
「じゃあ、ちょっと行ってくるね」
「え?」
「リベル君! 何を――」
僕はひとっ走り、最初にセイクルと会った場所まで駆けていき、そのまま海に飛び込んだ。
「お、おい! 子供が海に飛び込んだぞ!」
「リベル君!!」
「リベル!」
辺りが騒然となる。しかし次の瞬間――
ザッパアアアン!!
今朝のように桟橋に着地した。観客たちが唖然とする。
「これ、あとで食べます?」
僕は『スティング』で仕留めたタイとカツオを両手で掲げた。




