第一章 第四十八話 〜深海の結婚式〜
今日はスキュアルドとテティカの結婚式だ。パレードの開始時刻は十一時十五分――正午の四十五分前だ。
「リベル、ここが特等席よ。私と親方がセッティングしたから」
「楽しみにしておくのじゃ」
「楽しみね、ミレーナ、リベルちゃん」
「たのしみ」
僕と第一王女と親方、そして女王と第三王女はバルコニーにいた。
渡された双眼鏡で城下町を見渡す。因みにこれはテティカの作品だ。ゴーグルの応用なんだろう。
こうして見ると、城下町にはたくさんの人がいる。イルカやシャチも浮いているし、伝声管掃除のタコも旗を振っている。
あ! ブレブと奥さん、子供たちだ。フィンリーやシード、ギルバートもいる。他にも、村長や食堂のおばちゃんまでも参加している。
なんて愛されている町だろうか。僕まで嬉しくなってくる。そんなことを考えていると――
ゴワーーン……!!
結婚式開始の銅鑼が鳴り、城下町の正門がゆっくりと開いた。白いモヤで包まれている。スモークの代わりに、中から美しい装飾が施された、純白の台座が登場した。珊瑚や貝殻などが用いられ、陰影だけを使った見事なブライダルカーだ。
ん……? これ、もしかして、パレードの時の『山車』か!? そんな使いみちがあったなんて。
台座の周りでは、白い衣装を身に纏った魚人の女性たちがゆったりと踊りを披露している。彼女たちは魚人の里でブレブと初めて会った時に歓迎してくれた人たちだ。
台座の上が徐々に明らかになってくると、神秘的な衣装を身に纏った花嫁のテティカが、ゆっくりと姿を現した。純白のドレスと、手には珊瑚のブーケ。ものすごく綺麗だ。まるでお姫様――それはそうだ。
いつものゴーグルは装着していない。え? 見えるの? それ? まさかコンタクト!?
道行く観客もその可憐さゆえ息を呑む。
台座は中央広場で止まった。すると時計塔の鐘楼から、純白のタキシードに身を包んだ花婿のスキュアルドが降りて来た。花嫁は両手を広げて待ち構え、やがて二人は抱き合った。
あまりに幻想的な光景に僕は涙が出てきた。周囲の観客から歓声が巻き起こる。
そしてもう一度、銅鑼が鳴った。おかしい、いつもは一日一回のはずだ。しかも音の鳴るタイミングが早い気がする。
周辺の塔から増幅された光が、チンダル現象で通り道ができる。しかし、いつもと方向が微妙に違う。時計塔はまだ照らされていない。
「失敗!? そんなことある!?」
「大丈夫。見てて」
ラティナがそう言い指をさす。僕はその方向を見つめる。するとさらに周辺の塔の光が動いていき、やがて一箇所に集った。そしてそこには……
深海に――天使の階段、
新郎と新婦、照らされた二人の姿があった。
「すごい――」
天候にも祝福された二人に対して、大歓声が巻き起こる。かつてこんな結婚式があっただろうか。
僕は泣いた。隣の女王もミレーナを抱きかかえながら泣いている。と思ったら、一番泣いているのはラティナだった。
「良かった――良かった――」
親方がラティナの肩をぽんぽんと叩いた。ラティナは親方に抱きつき、わんわん泣き出した。おそらく、二人とも必死に考えてくれたんだろう。上手くいくかどうか分からないプレッシャーに耐えながら。そこまでしても、スキュアルドとテティカを最高の形で祝福したかったのだ。
光の演出が終わったあと、二人は抱擁から離れて手を繋ぐ。台座は城へ向かって再び進みだした。鳴り止まない歓声。と思ったら、今度はイルカとシャチが歌い出した。光のシャワーの次は、音のシャワーだ。器用に歌っている。え? ハモった!?
城門の手前で台座は止まり、二人は降りて来て門をくぐった。それを見届けた僕たちも、大急ぎで玉座の間へと移動する。
階段を上昇すると、玉座の間にはすでに女王が鎮座していた。隣にはラティナ、親方もいる。僕はというと、ミレーナを抱っこしている。全ての城の関係者が玉座の間やバルコニー、階段の周りにいた。
静まり返る玉座の間に進み出た新郎新婦は、右胸に手のひらを当て、立膝のような体勢になった。そしてそっと目を閉じた。
親方がマイクの位置をセッティングし、女王が話し始める。
「兵士長スキュアルド、第二王女テティカ。未曾有の国難をよくぞ乗り越え、この佳き日までたどり着いてくれました。女王としても、母としても、これほどの喜びはありません。二人とも本当に大きく立派に成長しましたね」
二人は目を開けて女王を見た。様々な感情が飛び交っているのだろうけど、この場で氾濫させまいと必死だ。そして、それは誰しもが一緒だった。
「新郎スキュアルド。汝はここにいるテティカを、病める時も、健やかなる時も、富める時も、貧しき時も、妻として愛し、敬い、慈しむことを誓いますか?」
「誓います」
「新婦テティカ。あなたはここにいるスキュアルドを病める時も、健やかなる時も、富める時も、貧しき時も、夫として愛し、敬い、慈しむことを誓いますか?」
「誓います」
「この国の女王として、二人が夫婦になったことを宣言します。新郎新婦は誓いのしるしに口づけを」
抱き合った二人は口づけを交わし、永遠の愛を誓った。




