第一章 第四十五話 〜女王の出産〜
「うーん、うーん」
「「お母さん、頑張って!」」
僕は今、女王の出産に立ち会っている。ラティナ、テティカも真剣に応援している。
「頑張れ! もう少しだ!」
スキュアルドも一緒だ。人魚の出産は家族の共同作業なんだな――え、僕いる? いらなくない?
女王が産まれそうなことはもちろん知っていたけれど、夜中に突然メイドさんに起こされて、急いでやって来てしまった。
第三王女の名前は「ミレーナ」。遺跡アンコウを斃し、僕が七日間の眠りに就いている間に女王と二人の娘が決めたらしかった。最後に国王が遺した子供だ。
「ふううん……!!」
女王がいきむ。そういえばほとんどお腹が大きくなってはいない。おそらくもともと体が大きいからだ。僕にはパッと見た感じでは分からない。ラティナとテティカを産んではいるが、時間が経っている分、大変なのかもしれない。寿命がよく分からないので、高齢出産という概念はよくわからないけど。
「くうう……!」
すると尾ビレが見えてきた。
「もう少し!」
「頑張れ!」
腰の辺りを過ぎてから、一気に全身が出た。目を閉じた顔が見える。
「産まれた!」
医師がすぐさま聴診器を当てる。空気の呼吸をメインにしていないので、泣かないからだ。医師が両手を上げながら首を縦に振った。
「やった!」
みんなが喜ぶ。どうやら肯定のジェスチャーらしかった。
傍らで医師の助手の方――看護師なんだろうか?
彼女が掃除機で水中に漂った女王の血を吸い取っている。おそらく換水口システムを作った親方の作品だろう。ポータブルドレーンだ。
ミレーナの大きさは僕の約半分だ。六十センチくらいだろうか? 女王やラティナ、テティカと同じ、青緑っぽい色の髪だ。
女王がミレーナを、そっと抱き抱える。
すると、目をパチっと開けて、もう泳ぎ出した。
「え、ええ! 人魚ってこんなにすぐ泳げるの?」
「そりゃそうだろ。何だと思っていたんだ?」
確かにその通りだ。よくよく考えるとイルカも産まれてからすぐに泳げる。
ミレーナはみんなの上を少し泳ぎ回ったあと、女王の胸の近くに進んで母乳を飲み始めた。
「わあ~!! かわいい〜!!! ミレーナ、私がお母さんよ!」
ミレーナはおっぱいを一生懸命飲み終わったあとに口を開いた。
「おかあさん」
「えええ!? しゃ、喋った!」
「そりゃそうだろ。何だと思っていたんだ?」
「そ、そういうものなの?」
「母親は胎内でやりとり聴いていて、学習するんだよ」
「じゃあ『スッきゅん』と呼んだら返事するの?」
「……違うと信じたい」
少なくともテティカのお腹の赤ちゃんには英才教育が施されていることだろう。くわばらくわばら。
「……ん? 酩酊酒乱全裸の第一人者は教育に悪いのでは?」
僕がぼそっと口を開くと、該当者一名が口笛を吹こうとした。だから意味ないだろそれ。口先から出る水流で、吸い取りきれなかった分娩出血のモヤが揺れた。
「「お母さん。おめでとう!」」
ラティナとテティカがミレーナごと抱きついた。生命の誕生の瞬間だ。続いてスキュアルドも抱きついた。幸い『スッきゅん』とは呼ばれなかったらしい。そして僕も手招きされたので近づいた。
「ミレーナ、リベルちゃんよ!」
「はじめましてミレーナ。僕の名前はリベルだよ。よろしくね」
「リベル……? だんなさん?」
「刷り込まれてる――!!」




