第一章 第四十三話 〜深海の鍛冶場〜
「これは……どういう状況?」
僕は遺跡アンコウ戦から目を覚ました。今回はどれくらい寝ていたのだろう。と、ふと横に目をやるとラティナが隣に寝ていた。
「うわあああああ!?」
僕がなんで叫んだかというと、そもそもここは僕の部屋だ。そしてこともあろうに、第一王女は真っ裸だった。
「うん……何? うわ、頭ガンガンする……」
「ラティナ! 服! 服!」
「服がどうしたって……あらら。脱げてたのね」
胸布(?)や腰布が水流で舞っている。
「なんでそんなに冷静なの!」
「別に、人魚だし」
「早く何か着てえ! というか、なんで僕の部屋にいるの!」
「え? いや、お母さんと私でずっとリベルの面倒を見ていたんだけどね。お母さんはただでさえ身重の体なのに、どうしても三人で仇を討ちたいってあんな無理な戦いに加わったでしょ? その反動もあって、もうじき赤ちゃんが生まれそうなの。だからマリンヌに『夜更かしは体に毒だ』って強引に連れていかれて。代わりに私が部屋に残っていたんだけど、またシェフから『酩酊クラゲ』の差し入れがあって――」
「この酒乱人魚!」
僕は部屋から出て、控えていたメイドさんに愚痴を言った。
「なんとかならないの? このモンスターファミリーは」
「女王とラティナ様はリベル様が相当心配だったみたいです。七日間も目を覚ましませんでしたから。ずっとありがとう、ありがとうって感謝していました――まあそれと同じくらい、スリスリナデナデペロペロしていましたが」
「プライバシー!!」
もうやだこの城……ペロペロ? 僕はぐったりしながら城門を出た。
城から城下町を真っすぐに進む。街ゆくみんなが声をかけてくれた。
「リベル、ありがとう!」
「この町を救ってくれてありがとう!」
「どういたしまして」
と言った瞬間、「ぐう」と腹の虫が鳴いた。そこら中にだいぶ響いたらしく、イルカとシャチが振り向いた。
僕は出店が立ち並ぶあたりまで来た。女王から食事はタダだと言われている。するとイカの絵が描かれている看板が目についた。
「イカちょうだい」
「おお! 英雄リベルじゃないか。ちょっと待ってな」
店主がイカを挟み焼きする。ホットサンドメーカーと同じ原理だ。「ブシュウ、プスプス」と美味しそうな音がする。彼は「あいよ」と串に刺して提供してくれた。
(あ、美味しい。ヒドロ虫じゃなくてイカの味だ)
自分でも思うがカスなコメントをしてしまった。
しかし、この城に来てからそんなに経ってないはずなのに怒涛の日々だったな。ひとまず解決はしたけど、悲しみは返って来ることはない。結局、本物の国王とは会うことはなかった。影国王が最期に見せた表情と口ぶりの意味は、ついぞ知ることはないだろう。
イカを食べ終わった僕は、親方の工房に向かった。他に行く場所もないから。そういえばこの町には図書館みたいなものもあるのだろうか? あったところでおそらく読めないだろうけど。
「親方ー、いる? あれ? いない?」
いくら工房のセキュリティが甘そうだからといっても不用心すぎる。まあ、親方ならそのうち、自動迎撃ロボみたいなものも作りそうだけど。すると工房の奥の、更に奥からテティカが出てきた。髪には布をかぶっている。
「リベル、こっち」
手招きされた僕は、その奥へと足を踏み入れる。いつもより換水口の音と流れが激しい。
そしてそこには親方と共に、巨大な四角い物体があった。
「何? これ」
「炉」
「炉? 金属を熔かす、あの炉?」
「そう。融解炉。見てて」
親方が開けてある扉の向こうに金属の様々な破片がある。
「何だ、これ?」
「槍の先」
「あ! 爆発したユニットと刃?」
「そう」
親方がレバーを下げて扉を閉め、スイッチを押した。赤いランプがつく。すると部屋が熱くなってきた。密閉された炉が、周囲の水に熱を奪われるのを防いでいるようだ。
やがてランプの光が緑色になると、親方はレバーを上げて扉を開けた。そこには真っ赤に光る金属が丸くなっていた。親方は素早く金属のコテで寄せ集め、やがてひとつの塊になった。
「まずはこれで第一段階終了」
そこにはまだ不揃いだがインゴットのようなものがあった。続いて親方はまた炉を起動し、粗インゴットに熱を入れた。すると親方は自分の顔の下の触手を四本伸ばし、ホースで繋がった銃のようなものを四つ手にした。次の瞬間。
ジュウウウウ!!
親方が手にしたノズルから、猛烈な圧力の水流が吹き出された。それが複雑なコテの動きと連動し、真っ赤なインゴットを精密に削り落としていく。
その後、同じ工程を三回分繰り返し、見事な三叉槍が完成した。
「ふいーっ。やはり時間がかかるわい」
「親方、お疲れ様。はい、スープ」
あの超高圧の水鉄砲は、ハンマーで叩けない水中での『切断』と『成形』のためにあったんだ。つまりこの場所は、深海における「鍛冶場」だ。
「では次はリベルの番じゃ」
「腕二本しかないのにできるか」




