第一章 第四十話 〜偽物の決着〜
「ちえええい!!」
影国王が水流を巻き起こしながら、太い触手を振り回す。
「ぐはっ!」
一直線に飛んで行ったブレブが、壁に激突する。
「ブレブ!」
「大丈夫だ。どうにか嬢ちゃんの推進器改は守ったぜ」
そういう問題ではない気がするが、とにかく無事なようで良かった。
「『テア』!」
僕は触手を二本切り裂いた。しかし、切った箇所が瞬時に接合していく。触手の切断は相性が悪いらしい。だが、若干の隙はできた。
ヒュンヒュンヒュン!
ギルバートがその隙を逃さず、オニヒトデを触手の根元に撃ち込んだ。少しずつ溶けていくが、いかんせん触手が太い上に多すぎる。
「ええい、ちょこざいな!」
触手と同化した影兵士たちが邪魔者を排除しようと、僕らの死角を狙う。
ズドドドド!
狙いを定めたフィンリーが両槍で乱れ突き、触手と影兵士を強制的に分離した。
「これで移動が制限されたな」
すかさずギルバートが銃でカプセルを撃ち、網が広がって影兵士を包み込んだ。
「こういうこともあろうかと」
よく見ると、今回の網には細いワイヤーがついていて、銃の先まで伸びている。ギルバートが手元のスイッチを押すと、影兵士が一気にこちらへ引き寄せられた。
ズドンズドンズドン!
網と鎧の隙間から、潜んでいたシードの槍が急所を滅多刺しにする。確実に再起不能にした。
「何だと!?」
影国王が驚愕する。
「まずは一人目だな」
一方、スキュアルドは高速機動を活かして触手影兵士を翻弄していた。
「おっと、危ねえ!」
だが、次第に触手槍の精度が上がっている。奴らは先回りやフェイントすら使い始めた。
「では、これはどうかな?」
槍を避けたスキュアルドの進行方向に、回り込むように網が展開される。
「なっ、まさか読まれていたのか!?」
彼は二叉になった槍を使い、網を切り裂いて脱出を図る。だが、その瞬間。
ドスドスッ!
網の向こうから槍が飛び出し、スキュアルドの動きが止まった。
「ぐあっ……!」
「捕まえたぞ、スキュアルド!」
全ての触手影兵士が一斉に、身動きの取れない彼へ襲いかかる。
「スキュアルド、危ない!」
僕は全力で『スウィム』を発動し、動けない彼を突き飛ばした。
ドスドスドスドスドスドス!
僕の体にあらゆる方向から槍が突き刺さった。激烈な痛みが全身を貫く。
「リベル!」
ブレブたちが叫んだ。
「ぼ、僕のことは大丈夫。すぐに『テア』で切り裂くから……っ」
動けない。何本もの槍で固定され、壁に縫い付けられている。これでは攻撃に転じられない。
「上出来だ。まずは目障りなそいつから、完膚なきまで血祭りにあげてやろう」
影国王の腕が分裂し、携える槍も増えた。ゆっくりと、僕を仕留めに寄ってくる。
「リベル……!」
「――スキュアルド、まだ少し動けるか? 超高熱ユニットで僕を刺してくれ!」
「な、何言ってるんだ!?」
「早く……僕は大丈夫だから、やってくれ!!」
スキュアルドは僕に言われたまま、麻痺して動かしにくい体を推進器で無理やり操った。
「リベル、すまない……!」
超高熱ユニットを装着した槍が、僕の背中を深々と貫通した。痛い以上に熱い! 苦しい!
「ぐわああああ!!」
ドゴオオン!!
僕の体は影兵士の槍や腕、その体もろとも爆発した。
「リベル!!」
「な、馬鹿な。味方もろとも吹き飛ばしおったわ! まあよい、手間が省けたぞ!」
僕の頭部は天井付近まで弾き飛ばされ、視界には散らばった自分のパーツが見える。意識が薄れそうになる寸前、頭の中で強く唱えた。
『リカヴァー』
四散した僕の体が、光を放ちながら一箇所へと収束していく。再構築が終わった瞬間、僕は『スウィム』で影国王に肉薄した。痛みと苦しさはまだ残っているが、気合でねじ伏せる。
「ば、化物か!?」
影国王は触手で叩きのめそうとする。しかし、僕は『バイト』でそれを食いちぎりながら回避した。そもそも、触手とヒドロ虫の化け物に「化物」と言われたくはない。
「くっ!」
窮地に陥った影国王が、全身に装甲をまとい始めた。
「させるか! 『アロー』『スティング』!」
まだ閉じきっていない隙間を縫って、射出と刺突を叩き込む。
「ぐはっ……!」
僕は『アロー』を両手で掴み、無理やり敵の装甲をこじ開けた。
「ブレブ!」
背後から拳を振りかぶるブレブが迫る。
「分かったぜ! おらよお!!」
ドゴン!
「ぐあああ!?」
右手の超高熱ユニットグローブが炸裂した。泡を撒き散らしながら、内部へと通じる巨大な穴が開く。
「ラティナ! テティカ! ベラルーナ!」
影国王が苦しげに家族の名を口走る。
そして、ブレブの影から控えていたスキュアルドが突っ込んできた。
「くたばれ! 偽物!!」
超高熱ユニットの槍先が、深々と心臓部へ突き刺さる。彼は起爆ボタンを押し、槍からユニットを切り離して即座に離脱した。ユニットの赤いランプが激しく点滅している。
その最期、影国王が微かに呟いた。
「……スキュアルド」
そこには、先ほどまでの怒気をはらんだ敵の顔はなかった。
「……叔父貴」
スキュアルドも思わず、素の状態で返事を返す。
「強くなったなあ――」
ユニットの点滅が最高潮に達した。
ドゴオオオオン……!!
影国王とともに、巨大な触手の化け物は泡の中に消えた。




