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第一章 第三十九話 〜深海の共闘〜

 次の部屋へと廊下を進む。壁などは相変わらず光っているが、黒いもやも濃くなってきたので先は見えにくい。

「国王はひとまず置いておいて、残り二十人はどんな影兵士がいると思う?」

 僕が質問した。

「おそらく、十人は手練れ。もう十人は精鋭部隊だ。強い上に速い。体の小さなマリィとエリィと言えば分かるか? と言っても、おそらくリベルの方が強いぞ。なんせあの巨大蟹を斃したんだからな」

 スキュアルドが僕を謙遜する。

「そりゃそうだな。敵の魚人たちもほぼ一人で倒したようなもんだし」

 ブレブと三人衆も続く。

「いや、僕一人で斃したわけじゃないでしょ」

「まあ、それだけ信頼しているってことさ」

 僕らは一層気を引き締める。ふと、廊下を抜けると黒いモヤが晴れた。

 巨大な円形の空間が広がる。今までの部屋よりも数倍の大きさだ。壁や床には赤く動く肉塊のような物体が大小さまざま散りばめられている。そして中央には赤黒く、うっすら透明にも見える肉の柱があった。その中心部分には二叉槍を携えた腕と、人の顔があった。

「叔父貴!」

 スキュアルドが叫んだ。するとその影兵士は喋りだした。

「お前がスキュアルドか? 冥土の土産に教えておいてやろう。我は国王ソルレオン。貴様ら敵を一匹残らず葬り去る者だ!」

 影国王が一斉に数十本の触手を伸ばした。先端は槍のように鋭く尖っている。

「てめえがその名を呼ぶんじゃねえ!」

 スキュアルドは推進器を使い、天井へと急加速した。僕は『テア』で触手を切り裂き、中央の敵へと迫る。しかし、その瞬間、シードが叫んだ。

「リベル、スキュアルド、後退しろ! ギルバート、さっきの要領で網を四つ打て!」

 僕らは言われたまま行動に移す。四つのカプセルが網を展開すると同時に、逆方向から網が飛んでいき相殺された。

「何っ! 読まれていただと!?」

 影国王が狼狽する。擬態の名手は、敵の細かな予備動作をよく観察していた。

「リベル、『アロー』で網に向かって乱射しろ!」

 僕は要領を得ないまま言われた通り撃ちまくる。すると『アロー』が当たるはずの場所で、肉塊が避けた。

「敵どもが潜んでいるぞ」

 水中で漂う網の向こうに、影兵士が十体姿を現した。

「ほお? よく気づいたな。では、これはどうかな?」

 ブレブの近くに潜んでいた二人分の影兵士の胴体が合体し、『あぎと』となって襲いかかる。

「ふざけんな、俺にはこれがあるんだぜ」

 ブレブはフロントステップで懐に潜り込み、右拳と左拳を顎ごと貫通させながら、それぞれの頭部へ叩き込んだ。

 

ボシュ、ボシュ!

 

 超高熱ユニットグローブが炸裂した。影兵士の首から上が一瞬で蒸発する。

「何だと!?」

「おお、これはご機嫌だな。どうせお前らは、前の部屋までの情報しか分かってなかったんだろ? 残念だったな、新しいやつを教えてやるぜ」

 相当鬱憤が溜まっていたらしい。これではどちらが悪役か分からない。

「そういえばブレブ、グローブの反動は大丈夫なの?」

「ああ。鍛えているからな」

「……半分くらい大丈夫じゃない気もするけどね――無理しないで」

 

「くっ、まだだ」

 影国王が指示を出し、近くにいたシードを三人掛かりの槍で突く。しかし、囮なのか血のモヤが出るだけだ。そしてすぐそばの背景が不自然に動いた。また奴らが襲いかかる。血のモヤがさらに広がっていく――だが。

 

ズドンズドンズドン!

 

 不意に、影兵士たちの首元に三つの穴が開いた。

「残念、両方ハズレだ」

 天井のシードが姿を現す。屈強な兵士も、死角から狙われたらひとたまりもない。まして囮の仕掛け方がえげつない。本物を見分けるのは至難の業だ。

 

ガンガンガン――

 

 一方、フィンリーの槍は影兵士の鎧に阻まれていた。奴らは繰り返し同じ言葉を連呼する。

「スキュアルド、スキュアルド、スキュアルド!」

「だから俺はスキュアルドでもスッきゅんでもねえって!」

 遠くでスキュアルド(本物)が触手と戦いながら睨みつけている。フィンリーですらも「スッきゅん」という呼び名を知っていたのか。もしかしたら全国民が知っているのかもしれない。人気者だな、全く羨ましくないけど。

 フィンリーが口を開く。

「やつらの癖を観察するのは、そろそろもういいか!」

 

ズドドドド!

 

 右手で高熱ユニットのゴム槍を防御させ、いつの間にか左手に持っていた別のゴム槍で、装甲の隙間を滅多刺しにした。ヨーヨーの両手持ちだ。僕なら脳天に当たる自信がある。

「折りたたみの槍は役に立つなあ。ブレるししなりはいまひとつだけど、これくらいなら構わないな」

 弘法筆を選ばずとはこのことか。もはや割り箸でも敵を倒せそうだ。

 

 ギルバートは銃で網合戦を演じていたが、タイミングを見計らい別の銃を取り出した。

 

ヒュンヒュンヒュン!

 

 複数のオニヒトデが手裏剣のようにあちこちへ纏わりつく。影国王の体の一部が徐々に溶かされていく。その前に二体の影兵士はもう再起不能だ。

「な、何だこいつらは?」

「網なしのオニヒトデランチャーだ。カートリッジはもう一つあるぜ」

 昔、ビー玉で遊ぶ玩具にこんなものがあった気がする。これの方が遥かに凶悪だが。網は模倣できたが、オニヒトデという「生物」はさすがに模倣できなかったらしい。少なくとも僕とスキュアルドのパレードでは使われなくて正解だ。

 

「とりあえず十体は斃したか」

「あとは精鋭部隊だね」

 ブレブと僕を先頭に影国王を狙う。

「舐めるな貴様ら、目にもの見せてくれるわ!」

 

ゴゴゴゴゴ……!

 

 地響きが鳴り響き、影国王の太い触手に十体の精鋭影兵士が合体した、巨大なイカの化け物が現れた。

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