第一章 第三十五話 〜海底のループ・ザ・ループ〜
「僕が先頭を進む。ヒドロ虫の群体という仮説がある以上、何が起きてもおかしくはないから」
石造りにも見える廊下を六人で進む。相変わらず壁面は薄気味悪く自発光している。念のため触れてみたが、今のところ特に問題は見当たらない。
やがて、廊下の天井・壁・床を一周するような、不自然な「溝」を見つけた。
僕は足を止め、前方の空間へ左手を伸ばした。
「おい! 迂闊に手を出すな!」
ドスドスドスドス!
切れ込みから無数の槍が飛び出し、僕の前腕を串刺しにした。焼けるような激痛。
「……なるほど。伸ばした左手ではなく、刺さったのは前腕部だ。ということは柄に触れた時と違って、この『罠』にはタイムラグがあるんだ。影兵士の槍と一緒だ。そして、この『罠』の槍は、壁などから垂直方向に一斉に射出されると決まっている。だから同じタイミングで僕の左手ではなく、それより手前の前腕部にブレスレット状の穴が開いたんだ。若干でも余裕があるならば、躱しやすい」
「お、おう……」
解析を始める僕に、四人がドン引きしている。
「それじゃダメだ、リベル」
「え?」
スキュアルドに真剣な顔で嗜められた。
「お前が適任なのはわかる。でもな、今回はたまたま上手くいったが、未知のトラップだったらどうする? 回復できるからいいって話じゃない。痛みは何のためにある? 危険を知らせるためだ。そんな無茶を続けてたら、お前も俺らも、いつか取り返しのつかないことになるかもしれないぞ」
彼は一度言葉を切った。
「分析は助かるが、好奇心がイルカを殺すこともあるんだぜ。例えば、俺の槍を使って段階を置いてもいいんじゃないか? それでもダメな時に、お前の手を借りればいい」
ぐうの音も出ない。正論すぎて反論の余地もなかった。
「まあ、俺の槍が使い物にならなくなったら、その時はまた一緒に考えようぜ」
四人がようやく笑みを浮かべて頷いた。
次の溝では、スキュアルドが槍を突き出してみた。案の定、僕の腕の代わりに刃の辺りが集中攻撃を受けた。もちろん槍にダメージはない。
「上手くいったみたいだな。この調子で行こうぜ」
彼が僕の肩を叩いた。それからは僕が先頭、溝のあるところは槍を先行して慎重に進んだ。
すると、再び円形の広い部屋に出た。
待ち構えていたのは、十体の影兵士。僕らを見るやいなや襲いかかってきた。僕はすかさず両腕から『アロー』を連射する。
ドドドドーー
だが、雲に向かって矢を放つように、勢いを削ぐ程度で決定打にはならない。
「任せな!」
フィンリーがゴムの付いた槍を放った。槍は影兵士の体を貫通し、なおかつ傷口を抉り広げる。以前のものよりも長い改良型だ。射程でいうと七メートル超。刃の先端には、しっかりと高熱ユニットが備わっている。
さらに彼は収縮と伸長の反動を利用し、ヨーヨーのループ・ザ・ループのように自在に槍を操り、連射する。とんでもないセンスだ。
「敵の射程には入れさせない。お前らの強度が低いんなら俺の独壇場だ」
影兵士たちは次々と熱で結合をバラバラにされ、霧散していく。
一息ついて、彼が言う。
「今回のやつらには相性が良かったな」
「……あとで城の兵士たちにも教えてやってくれないか?」
「教えるのはいいけど、これ、他人ができんのかな……」
連射の制御を一つ間違えれば、自分を貫きかねない超高等技術だ。よい子は決して真似しないように。
「よし、この調子で次に行こう」
フィンリーに促され、泳ぎ出す。
「スキュアルド、確認なんだけど」
「何だ?」
「さっきの影兵士も、やっぱり仲間の顔をしていたの?」
「……ああ」
「そっか――」
と、先に進もうとした瞬間。足元に転がっていた影兵士の、胸から上の残骸が蠢いた。
「スキュ……アル……ド」
ズバン!!
スキュアルドは、その言葉が終わる前に、槍の石突きで敵の頭部を粉砕した。




