第一章 第三十三話 〜遺跡の入口〜
「では皆さん、頼みましたよ……」
「うっぷ……」
ラティナと女王はつらそうだ。僕は『ファドル』を習得したので、酔いを制御できるようになった――気がする。
「なあ、二人はどうしちまったんだ?」
ブレブが僕に耳打ちする。
「簡単に言うと、景気づけにみんなで『酩酊クラゲ』を大量に食べたんだ」
「アッハッハッハ!」
ブレブが大笑いした。ラティナと女王は睨みつけている。
「こりゃあいい。そういう時間も必要だろう。少しは息抜きになったんじゃねえか? 安心しな。ちょちょいとその遺跡とやらに行ってくるからよ。いい成果が出たら、その時は俺らにもごちそうしてくれ」
次期村長の素晴らしい心積もりで、僕らもやる気になった。ラティナと女王もようやく微笑んだ。
「いいか? お前さんら。装備の確認は大丈夫か?」
親方に戦士たちが頷いた。そしてスキュアルドとテティカは、これが最後ではないと誓うようにハグを交わし、キスをした。
「ブレブも奥さんとキスするの?」
「……人前でやるわけねえだろ」
四人衆が顔を赤らめながら明後日の方向を向いた。
僕ら六人は蟹の巣穴の前までやってきた。
「ここがその蟹と戦った場所なのか? こんな広い洞窟が突然できたとなれば怪しいな」
「その通りだ、旦那。で、確かに遺跡のような装いをしているな……」
僕らは発見された入口を見た。整えられた岩肌は、一見、人工物のように見える。
「じゃあ『ブレブホイホイ』を起動するぞ」
「だから食堂のおばちゃんのと味も匂いも違うんだって」
「……そういう問題なんだ」
今回も三尾のブレブホイホイを起動した。前回と違い、穴めがけて真っすぐ進むタイプだ。デコイたちは暗い穴の中に消えていった。
「何も起こらないな」
「そうだね」
「では、俺らも中に入るしかないか」
一同は慎重に進入する。入口は幅五メートルほどだ。巨大蟹は倍の大きさがあったから、中に入ることはできない。
「妙だ」
スキュアルドが呟いた。
「どうしたの?」
「なぜ内部が――『見えて』いるんだ?」
確かにそうだ。僕は『ナイト=ヴィジョン』で暗い場所でも見えているが、他の人たちは違うはずだ。
「みんなは暗闇だと見えないの?」
「いや、イルカやシャチほどじゃないが、音でうっすら地形は把握できる。だが、この遺跡は『目』に直接入ってくる。しかも光っているのに、黒いもやがかかっている……気味が悪い」
人魚の城下町や魚人の村では照明がある。しかし壁も天井も、自ら発光しているかのようにうっすらと見えている。
「他の遺跡は洞窟と一緒で暗いだけだ。だが、ここは明らかに異質だ」
僕らは入口の突き当たりを右折した。少し直進すると、円形の広い部屋に出た。
「なっ!」
スキュアルドが声を上げる。そこには二人の、顔の真っ黒な人魚兵がいた。
「本当にあいつらのツラしやがって!」
「あ、おい! 待て!」
スキュアルドが二叉槍で敵を刺した。
「!? 手応えがない……?」
「スキュアルド、危ない!」
僕が彼と敵の間に入った瞬間。
ドスドス!
「ぐはっ……なっ!?」
敵の槍が、物理法則を無視するように伸びて僕の腹部を突き刺した。
「リベル!」
「大丈夫、その技は覚えている! 『リカヴァー』『スティング』!」
僕は回復と同時に、両腕でカウンターの刺突を叩き込む。だが、スキュアルドの言った通り手応えがない。まるで『酩酊クラゲ』を突いているような奇妙な弾力だ。と思った瞬間――
ドスドス!
「は……?」
貫いたはずの敵の槍が、再び伸びて僕を突き刺した。複数の黒い顔が二叉槍を持つ男を見て、嘲笑うかのように歪んだ。
「くそっ……!」
スキュアルドがたじろぐ。
「しゃんとしやがれ兵士長! 『バイト』!」
バクン!
光の顎がそいつの上半身を喰った。もう片方の敵がたまらず撤退する。
「逃がすか!」
僕は残りの一体も『バイト』で処理した。今度はさすがに反撃してくることはなかった。
「スキュアルド、どうした? 様子がおかしいぞ」
「あ、ああ……すまない。実はあの二人は――蟹の巣穴で最初に犠牲になった、俺の親友なんだ……」




