表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

27/57

第一章 第二十六話 〜特化と興味の向こう側〜

「ねえ、どうしたらいいかな?」

「うーん……」

 パレードから一夜明け、僕は第一王女のラティナから『スープ』に誘われた。

 要は地上でいうところの『お茶会』だ。スープの中身は魚の出汁とワカメ。ちゃんと熱が通してある。大きめの保温マグカップにはスライド式のフタが付いていて、温かい状態を保てるようになっていた。

(親方、自分の製品にロゴマークでも入れればいいのに)

 ……と思ったら、これはテティカの作らしい。あの子、本当に器用だな。

 

 それで、相談の内容というのは――。

「私は体が弱いし、才能も別にない。それでも、何かしたいと思って……」

「僕も今まで必死にやってきただけで、特に教えられることもないかもしれない」

 一応、僕の今の年齢は四歳だ。人魚だとしても人生相談を四歳がするのだろうか?

「そっか……。そういえば、お父さんは『特化』した方がいいって言ってた」

「特化?」

「それと『興味』を持った方がいいって」

「なるほど……」

 僕はしばし考え込んだ。ラティナはワカメスープを口に運んでいる。僕は口を開いた。

「大した話ではないんだけど……。僕は前世で、母親に殺されたんだ」

 

ブフーー!!

 

 ワカメが僕の顔面に飛んできた。ツミレ入りだ。昨日はヒトデを躱したんだけどな。

「な、な、なんて言ったの今!?」

「いや、興味ないとは思うけど」

「ないわけないでしょうが! 何よ、前世って!」

「僕にとっては面白い話じゃないんだ。つらい記憶でもある。おそらく、この星ではない場所。そこで前世の僕は生まれた。ただ――育たなかった」

「え?」

「体が動かせなかったんだ。手も足も……ヒレ、って言った方がいいのかな。生命維持装置っていう色んな管が体に繋がっててさ。まともに話すこともできない状態だった」

 ラティナが青ざめた。文明が未発達なこの世界において、そんな子供が辿る運命は想像に難くないだろう。

「でも、前世ではそれなりに文明が発達してたんだ。言葉は話せなかったけど、目の動きで文字を書くことができた。詳しい原理は僕も知らないけど。それで、世界中のあらゆる情報を『検索』することができたんだ」

 彼女は僕の話に吸い込まれるように聞き入っている。ただ、スープがこぼれると勿体ないので、僕は彼女のマグカップのフタをスライドさせて閉めてあげた。

「体が動かせなかったから、正直、何もできなかった。だからその代わりに、ひたすら調べ物をしたんだ。それしかなかったからね。幸い、前世では膨大な量の情報が手に入った。娯楽もあった。でも、僕は死ぬまでずっと、検索を続けていたよ」

 ラティナは頭を抱えだした。無理もない。この世界の常識ではあり得ない話だ。

「だけど、さっき言った通り、母親に殺された。装置の電源を切られてね。……でも、無理もないよ。あっちの世界の僕には、価値がなかったんだから。むしろ、よくあんなに長く生かしてくれたと思ってる。悲しかったし、苦しかったけど。そこで前世の僕は一度、死んだ」

 彼女は頭を抱えたまま、震える唇でこちらを見つめている。

「そして奇跡的に、この世界でもう一度、生を受けた。この世界のお母さんはすごく優しくて、僕も大好きだった。……けれども、幸せは長く続かなかった。白髭が僕をお母さんから連れ去って、棺に閉じ込められたまま川から海に流されたんだ」

「はあぁ!?」

「その後、サメに食われて、魚人の村でブレブに会って、敵の魚人を倒して、蟹も倒して今に至る、と」

「……ねえ、あまりにも後半を端折りすぎじゃない……?」

 ラティナの目は点になり、頭の中が泳ぎ、回っている。無理もない。ここに来るまで三話以上費やした物語なんだから。

「だから、僕は生きてしまったんだ。使命とか役割なんて立派なものは分からないけど、生きている以上、やれることはあるかもって思える。……もちろん、世の中にはどうにもならない状況の人だっている。『お前はいいよな』って言われたら、本当にその通りだと思う。でもね、前世の学問に『経済学』っていうのがあってさ」

 僕は彼女の瞳をまっすぐ見た。

「例えば、スキュアルドは今、この国で一番泳ぎが速い。じゃあ二番目や三番目は無駄なのか? 決してそうじゃない。国全体で見れば、一番速いスキュアルドは前線の兵士として活躍し、二番目や三番目の人は漁で活躍できるかもしれない。親方は国一番の技師だけど、テティカは? 共に作業することで効率は上がるし、別の場所で別の修理が進められる。個々で見れば『一番じゃない』悔しさはあるだろうけど、社会全体としては、その二番目や三番目がいるからこそ豊かになれるんだ」

 ラティナの動きが止まった。

「『キュレーション』って言うんだけど、物事を俯瞰して、整理して、必要な場所に繋げる。……国王は、その学問のことは知らなかったと思うけど、似たようなことを経験的、あるいは直感的にに分かっていたんじゃないかな。だからラティナに『特化』しろと言った。一番じゃなくてもいい、何もないところから自分で長所を作ること、あるいは、長所だとわずかでも感じる点を伸ばすこと。すなわち『特化』。そのためには、どれが長所になるか分からないから、きっかけ作りのために世界に『興味』を持てって。真意は分からないけど、参考になればいいかなって思ってさ」

 ラティナはしばらく呆然としていたが、やがて、堰を切ったように泣き出した。

「お父さん……!!」

 顔を覆い、肩を震わせて泣く彼女の姿に、僕はテティカと同じ血を感じた。やっぱり、家族っていいものだね。

 

(僕も、いつかまた会えたらな……)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ