第一章 第二十四話 〜弱さの向こう側〜
私は弱い。心からそう思う。
私の名前はラティナ。この人魚の国の第一王女。でも、王女とは名ばかりの『できそこない』だ。
生まれた時から体が弱く、泳ぐのも遅いし、これといった秀でた才もあるわけでもない。平均以下。それが私。ただ、唯一誇れることがあるとすれば、周囲の人間に恵まれたことだとだろう。
お父さんもお母さんも、優しくて大好きだった。お父さんは国王。国をグイグイ引っ張るというよりは、皆のまとめ役――もっと言えば、お母さんの補佐という立ち位置だった。
よくことわざで『尾ビレに巻かれる』っていうのがあるけど、お父さんはお母さんに尾ビレで巻かれても、それを楽しむような人だった。たまに「ギブ! ギブ!!」と叫びながらミシミシと音を立てて青ざめていたけど、鍛え抜かれた筋肉があったから、きっと大丈夫だったのだろう。これもことわざにある『筋肉は役に立たないことも多いが、あればあっただけ輝ける』――あれ? 違った?
お母さんは女王。そもそもこの人魚の国では女性の方が力が強くなりやすく、突出した個体が生まれる確率も高い。だから、お母さんもマリィもエリィも体が大きいし、強い。
お母さんは確かにお父さんに対して『尾ビレを巻いていた』けれど、それは支配とかではなく、『愛情で包んでいた』のだと思う。お父さんが何度か壁まで吹き飛んでいったのは見たことがあるけれど。でも、二人は心から愛し合っていた。
妹のテティカは一見おとなしく見えるけど、非常にしっかりしていた。工房の親方に出会うと、機械工作の分野で驚くべき才能を発揮した。
テティカとスキュアルドは歳が近かったこともあり、昔から仲が良かった。というより、二人とも心の中で好いていた。まあどちらかというと、テティカの方が特に。こっそりなのか堂々となのか分からないけど、よく『ちゅー』をしていた。それも、口に。
従兄弟のスキュアルドは、私たち家族から弟のようにかわいがられていた。叔父夫婦が亡くなってからは、過保護なほど大事にしていた。特にお母さんとテティカは。私? 私はそこまでではなかった。スキュアルドにリボンつけてたのも普通なことだし。
もともと細身だった彼は、自分を追い込み、今では国内最速を誇るほどに成長した。お父さんや兵士のみんなと共に、血の滲むような努力を重ねた結果だね。
因みにお母さんとテティカは、どんなに逞しく、カッコよくなった彼を前にしても、意地でも『スッきゅん』と呼び続ける。きっと、幼い頃の愛らしい面影を、いつまでも胸にしまっておきたいのだろう。ただそれにしては本気で落胆しすぎではないだろうか?
でも私は? 私には何もない。
すぐ息が上がるし、体も大きくない。テティカのような創造の才も、スキュアルドみたいな速さもない。
私はお父さんが大好きだったから、よく相談を持ちかけた。
「私はみんなみたいにすごくなれない。体も弱いし。どうしたらいい?」
「うーん、そうだなあ。ラティナ、自分の中で何かに『特化』してみるといいかもしれないな」
「『特化』? 特化って何? 特技ってこと?」
「特技と言うほど仰々しいものじゃなくていい。何か少しでもやりたいな、できそうだなっていうものがあったら、ひたすら掘ってみるんだ」
「でも私、何にもないよ? 泳ぐのも遅いし、頭だって良くない」
「うん。まずは何でもいいから、ほんのわずかでも『興味』を持つところから始めるんだ。『興味』がなかったら、ちょっとずつ、色んなものを調べてみよう。最初は仕方なくでもいいから。すると昨日より今日、今日より明日、何かが変わっていくと思うんだ」
お父さんは、そんな優しさで国民からも慕われていた。
でも、命を落とした。
化物蟹の襲来にによって、九十三もの尊い命が失われた。
生き残ったのは、スキュアルドただ一人。
大好きなお父さんと、あんなに良くしてくれた仲間の兵士たちを一度に失ってしまった衝撃は、あまりにも大きすぎた。
「ラティナも、リベルちゃんに会ってみたらいいと思うなあ。小さくて若くて、とってもかわいいの! おでこもほっぺたもお腹もスベスベなの。ただ最近は触らせてくれないの。反抗期かしら?」
「いや、素直期だと思うよ……おなか?」
「――それでね、リベルちゃんはとても強いの。ボロボロになりながらも、スッきゅんと一緒にパパとみんなの仇を討ってくれたのよ」
お父さんでも敵わなかった怪物を、まだ幼い少年が倒した。
彼に会えば、私も変われるだろうか?
お父さんが言っていた『興味』の先へ、勇気が出るだろうか?
お母さんがそこまで言うのなら、会ってみたい。
ちょうどもうすぐ、彼を讃えるパレードが開催されようとしていた。




