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第一章 第二十二話 〜人魚の国の時計隊〜

 ーー人魚の城下町には高い塔がいくつもある。

 そのうち城壁の四隅はとりわけ高い。

 下は見張り台になっている。

 その高い塔は何のために作られたのか?

 それは上手くいけば毎日分かる。

 この町では深海なのに日が差す。

 ほとんど日光も届かないはずなのに。

 しかし、明るくなることを人々は誰もが知っている。

 照明はあちこちにある。光るサンゴや宝石があるから。

 ではどうして?

 それは人魚の城下町には、特別任務を与えられた部隊がいるからだーー

 

「ここ?」

「そう、ここ」

 僕はテティカに言われた通り、昼前に中央広場の一番高い塔の下に来ていた。

「ここ何?」

「付いてきて」

 そのまま塔の上まで泳ぐ。地上と違って階段もはしごもない。ただレンガをくっつけて積んだような構造だった。細いが、がっちりしている。

 

 中央の塔のてっぺんは、鐘のない鐘楼のような構造になっていた。その空洞を覗き込むと、一人の人魚が寝ていた。兵士なのか鎧をつけている。彼は仕事もせず、ただ寝ている。

「彼は?」

「しっ、静かにして。邪魔にならないようにここにいて」

 僕とテティカはてっぺんより少し下、鐘楼の床上を覗き込む形で待機した。

 すると少しずつ町が明るくなってきた。最も日光が強くなった時、高い塔では不思議な事が起きた。

「実はこの中央広場以外の塔では、壁に垂直のスリットが入っているの。一瞬だけ光が多く差し込むように。そこには凹面鏡が付いていて、光が集められる。その先には凸レンズ、加えて鏡がある。見て」

 周辺の塔に集められた光は鏡で反射し、中央の高い塔を指した。チンダル現象で光の道がそこに集う。幻想的だ。

 僕らのそばの鐘楼には、無数の鏡とレンズがある。光がさらに反射し、一つのレンズに集約された。

 そして最も明るい光が差し込んだ瞬間、それを感知した大きなシャコが、即座に寝ている人魚の尾にパンチを叩き込んだ!

 

ドゴン!!

 

 クッションのような鎧があるおかげで大事には至らないようだが、衝撃は凄まじい。飛び起きた彼はすぐさま仕事に取り掛かる。

 彼の尾ビレにはマレットが取り付けられており、そのまま渾身の力で巨大な銅鑼目掛けて『人魚ビンタ』を繰り出した!

 

ゴワーーン……!!

 

 人魚の城下町の人々は気づく。

「あ、正午だ」と。

 僕はその光景を見て、思考が停止したまま固まった。

 

 テティカが淡々と語り始める。

「あちこちの家には『油時計』があって、それは直角と水平の真ん中の角度に傾けられているの。斜めになってるって言えばいいかな。そしてボタンを押すと逆さまにひっくり返る仕組みになっている。場合によっては角度を少し変えて、微調整できるようにもなっているの」

 僕は口を開けたまま、テティカの話を聴く。

「一つの『油時計』は前の日の正午から次の日の正午、つまり一日ね。それの半分の半分の半分の半分の半分、三十二分の一の時間で油が落ちきるように決まっている。終わったら向きが百八十度変わる。だから『時計隊』の彼ら、隊長と大シャコが、正午の時間を城下町中に報せて校正する必要があるの」

 ……つまり前世の記憶でいうと、四十五度に傾けられたオイルタイマーが、四十五分で全部落ちるように設定されていて、重さが変わったら自動でひっくり返る、ということだ。それで夜でも暗くても時間が分かると。

 よく冷静に計算できた、僕。

 

 ーー上手くいけば毎日分かる。

 そう言ったのは、曇りの日には日光が届かないからだ。

 その場合、油時計を用いて俺と相棒が正午を教えてくれる。

 正午以外の時間は他の『校正塔』に赴き、鏡やレンズを磨いたり、メンテナンスをする。

 忙しく動き回らなきゃならないが、正午の時だけはお昼ご飯も兼ねてゆっくり休憩するーー

 

「おお、君がテティカ姫が言っていたリベル君だね? 巨大蟹の時はよく頑張ってくれた。おかげでこの時計塔も無事で済んだよ。ありがとう!」

「どういたしまして……」

「相棒、お疲れ。今日も働いたな」

 大シャコの相棒に、アサリやハマグリ、牡蠣を手渡す。貝類は栄養価も高く、大好物らしい。

 人魚の隊長と大シャコ。二人の『時計隊』は今日も重要な特別任務をこなす。

 

 一方の僕は、脳を直接『人魚ビンタ』で殴られたような衝撃を受けて帰っていった。

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