ルナティック=リバース 第二十一話 〜城下町と目を覚ました僕〜
「ん……?」
僕は目を覚ました。まだ意識がぼーっとする。
「あら! 起きたのね、リベルちゃん!」
視界が開けると、そこは見覚えのある女王の部屋だった。
「五日も目を覚まさないから心配したのよ。目覚めて良かったわ」
「そうだったの……あれ? もしかして、ずっとここにいたの?」
ーーん? ということは?
「まさか、いたずらされてた!?」
「そ、そ、そんなわけないじゃない! ねえ?」
どの口が言うのか。前科の宝刀たる女王が。
「そうですね。リベル様に対して『ちゅー』をしていただけです。ほっぺたとおでこと、それからお腹に」
控えていたメイドさんが無表情に告げた。女王は笑顔のまま、滝のような汗を流し始める。海の中で汗が出るわけないだろう。というか、なんだって? お腹にも!?
「し、仕方ないじゃない! かわいいものには『ちゅー』したくなるの! スッきゅんに『ちゅー』できなくなった今、リベルちゃんに『ちゅー』をするのは必然……ああ、行かないでーーっ!」
僕は身の危険を感じ、全力で女王の部屋から飛び出した。
「おお、リベル! 目は覚めたのか? 心配したぜ……やっぱり激闘でげっそりしているな」
「リベル、おはよう」
城の入り口で、スキュアルドとテティカに出くわした。
「おはよう。テティカ、スッきゅん」
「……お前まで俺をその名で呼ぶのか」
「いや、さっき女王がそう呼んでいたから」
スッきゅんは両手で頭を抱えた。テティカはそっぽを向いて口笛を吹いている。吹けるわけないだろ、水中で。
「そう言えばリベル、パレードの話は聞いたか?」
「パレード? 何それ?」
「俺とお前が全国民の仇である蟹をやっつけただろ? それで女王を始め、みんなが大喜びでさ。お祝いしたいんだと」
「……何その恥ずかしいイベント」
「まあそう言うな。みんな城壁の上まで迫った巨大蟹の脅威を目の当たりにしたんだ。さぞかし溜飲も下がったんだろう。国を挙げての総員避難まで行ったからな。おかげで住民の危機意識も高まった。その機運を形にしたいんだよ」
「へえ……」
僕はがむしゃらに動いただけで、全然ピンと来ていない。そもそもスキュアルドと会ったのもついこの間のことだ。だが、あまりに濃密な時間を過ごしたせいで、出会った時期なんてどうでもよくなっていた。
「まあ、あまり気乗りはしないけど……そのパレードって何をするの?」
「そう言えば、具体的な内容は聞いてないな。テティカ、女王はなんか言ってたか?」
「確か、スッきゅんとリベルが城から城下町の正門まで、一直線に行って帰って来る」
「なんだ、それだけでいいのか」
「恥ずかしいことには変わりないけど」
「で、ナマコをぶつける」
「……え?」
「……は?」
「町のみんながいっせいに、スッきゅんとリベルにナマコを投げつける」
「ふざけんな!」
「やだよ、気持ち悪い!」
「大丈夫、ナマコは水中だとそんなに速度が出ないから」
「そういう問題じゃねえ!」
「というか、ナマコって刺激したら内臓を出すんじゃ……」
「あ」
「『あ』じゃねえ!」
「やだよ僕! ベタベタになる!」
「確かに」
「なんで気づかなかったのさ!」
「というか、先に言え!」
「仕方ない。ナマコ中止」
「「当たり前だ!」」
「……っていう事があって」
僕とスキュアルドは工房へ向かい、親方に愚痴をこぼした。
「それは止めて正解じゃ。時計もお前さんのゴーグルもベタベタになるぞ」
「あ」
「『あ』じゃねえ」
「しかし、よくぞ二人とも無事じゃった。そしてあんな巨大蟹を倒した。見事じゃったぞ」
「みんなのおかげだけどな。まあ、リベル一人だけでもなんとかなったかもしれねえが」
「いや、たぶん僕だけじゃどうにもならなかったと思う。仮に善戦しても、何かの拍子に城下町へ侵入されていたら大変なことになってた。他の人たちが先に戦って、犠牲になってくれたからこそ、時間が稼げたんだ」
「……リベル」
「まあそうじゃな。儂の超高熱ユニットも、テティカの推進器も、そしてスキュアルドの槍も、すべてが繋がってリベルが奴を倒すことができた。その事実は変わらん」
「そうだな」
「じゃが、これまた見事に壊れたな」
親方は、もはや三叉槍ではなくなった二叉槍を眺める。
「ああ。だが、役に立った」
「ここまで威力があるとは思わなんだ」
「……想定外だったのか?」
「いや、まあ、多少は」
「おい!」
「と言っても、せいぜい槍が全く使い物にならなくなるくらいじゃろうと思っとった」
「……結構危ない橋を渡らせてくれたな」
「まあ、上手くいったんじゃから問題なかろう。それより、この槍は一旦借りるぞ」
「ああ、いいぜ。形見とは言え、このままじゃ使い物にならないしな」
「代わりに、前と同じ型の三叉槍は作っておいた。使ってくれ」
「おお、サンキュ!」
一方、僕はテティカが手にしていた推進器を眺めていた。
「いいなあ、それ」
「欲しいの?」
「いや、欲しいけど、僕には使えないからね……」
「そうだね」
「こういう機械とかシステムとか、僕も好きなんだけど。宝の持ち腐れになっちゃうし」
「じゃあ、これは?」
テティカが指差したのは、工房の片隅に置かれた見慣れない精密部品だった。
「これ何? ここに来た時から気になってたんだけど」
「せっかくだから見学するといい。話は通しておくから」
「? 教えてくれないの?」
「たぶんリベルなら、直接自分の目で見たほうがいい。明日の昼前に、中央広場の一番高い塔の下に来て。たぶん、しばらくは晴れるから」
僕は腕組みをしながら、不思議な予感に首をかしげた。




