ルナティック=リバース 第十九話 〜巨大な仇敵〜
あまりにも巨大な蟹が姿を現した。横幅は十メートル以上、高さや奥行きも十メートル弱はあろうか。
しかもこいつは、蟹は蟹でも『カラッパ』だ。大きく丸いフォルムの装甲。これでは槍でも銃弾でも一切効くわけがない!
「リカヴァー!」
痛みは多少和らいだが、麻痺はほとんどどうにもならない。僕はなんとか動こうとした。その瞬間——。
ドスドスドス!!
さっきの感触が続いた。痛い! 麻痺もさらに悪化していく!
僕は目を凝らした。違う、蟹だけじゃない。二対の蟹のハサミに巨大イモガイが内蔵されている! こんなもの麻痺するに決まっている。兵士たちもこれでやられたんだ。高機動装甲車に機関砲が二門装備されているんだから。僕は必死に体を動かそうとする。とたんに視界が上下にぐらりと揺れ、体が持ち上げられる。
ガシッ……!
ーー!!
ついに蟹のハサミに捕まった。攻撃を加えようにも麻痺しているから何もできない。
バキッ……バキッ……!
「あああああ!」
痛い! 痛い! 二本のハサミで僕の胴体が挟まれる。畜生! 一思いじゃなくじっくりはさんでいっている。もがけもしない!
メキメキ……ボキッ……ブチッ……!
息もできない。肋骨が折れていく。激痛と苦しみが広がる。ハサミはやがて背骨に到達した。
バツン……!
蟹は僕の体を切断し、引きちぎった。視界に僕の下半身が映る。腸なのか何なのか、内臓が露出して大量の血が出ている。視界が暗くなっていくーー
意識が混濁する中。
耳元で、無機質な声が響いた。
脳裏に、うっすらと光る文字が浮かび上がる——
【アロー(射出)】
【パラライズ(麻痺)】
【シザー(鋏断)】
これを……待ってた……!
一方その頃、スキュアルドは物陰に隠れて、唇を噛みひたすら耐えていた。
……俺の一撃は一度きりだ。外せばリベルが死ぬ。だから、絶対に逃さない。奴が一番の隙を晒す、その一瞬を待つ。だがもう我慢の限界かもしれない……。
すると舞い上がった砂の中にリベルの姿が見えた。蟹は口に運んで食べようとしている。
「くそおお!」
スキュアルドが飛び出そうとしたまさにその時。「リカヴァー!」リベルの体が光り、再生していった。
巨大蟹は驚いたのか、両手のハサミを強固に閉じ、重装甲でガードの体勢を取る。
「僕の狙いはそこじゃない!」
フェイントの形になった。一瞬の隙をついて『スウィム』で後ろ側に回る。なるほど、脚はオールの形をした『遊泳脚』、つまり『ガザミ』になっていたのか。泳ぎが得意なわけだ。僕は叫ぶ。
「シザー!」
両腕を大きく開く。それはそのまま光る巨大な鋏と化した。そして奴の脚目掛けてクロスさせる。
ザンッ!
最後尾、左脚の一本を切り落とした。巨大蟹は慌てて逃げようとするが、バランスを崩しているので上手く移動できない。すかさず右のもう一本の遊泳脚もぶった切る。「シザー!」
ザンッ!
たまらず逃げ出す巨大蟹。すぐに両手のハサミを僕に向け、ガトリング砲のように麻痺矢を連射した。
ドスドスドス!
僕の体のあちこちに矢が刺さり、激痛が走る。しかし、僕はそのまま片方のハサミの付け根を目掛けて泳ぐ。そして『シザー』で切断した。
ザンッ!
左のハサミが落ちて装甲が剥がれた。待ち望んだ瞬間が来た。
「スキュアルド!」
「うおおおおお!!」
出力最大の推進器が唸る。スキュアルドは三叉槍を蟹の口元に突き込んだ。
バキィ!!
殻を破り、肉の内部に深く刃が刺さる。そして柄の超高熱ユニットのスイッチに手をかけた。
「くらえ叔父貴の仇! 仲間の仇!!」
ズドオオオン!!
巨大蟹の内部が水蒸気爆発した。大量の泡が発生した。重装甲で支えきれなくなったハサミや体は垂れ下がり、沈黙した。
「やったのか……?」
「おそらく……」
僕とスキュアルドは目を見合わせ、強く抱き合った。




