ルナティック=リバース 第十八話 〜巨大蟹の巣穴〜
僕とスキュアルドは、蟹の巣穴へと向かっていた。
「さて、どうする? 俺の新兵器の槍は一度しか使えない。推進器はバッテリーが保つ限りだ。ぶっつけ本番になっちまったが、作戦会議でどうこうなる相手でもないか」
「スキュアルド、一つだけ約束して」
「……なんだ?」
「僕が合図するまで、絶対に隠れていて。何があっても突進はしないで」
「はあ? どういうことだよ!」
「僕が必ず突破口を開く。……僕には『リカヴァー』というスキルがある。ただ、魔法力の知識がない僕にとって、それは不確定な要素の塊なんだ。昨日まで使えたものが、今この瞬間では一切使えなくなるかもしれない。それでも、そのリスクを背負って対処できるのは僕しかいないんだ。だから先制は僕がやる。そのあとに君が続いてくれ」
「それで俺ら二人とも助かるんだな?」
「……そう信じるしかない」
「……ああ、わかった。俺は正直、先制攻撃の役には立てねえ。お前が合図をしたら、その時は存分に暴れさせてもらう。……万が一、お前がやられたら、俺も特攻する。それだけは覚悟しておけ」
「ダメだ、スキュアルド。女王は『生きて帰れ』と言ったんだ」
「テティカには伝えてある。俺が戻らなければ、この国を捨てて全員で逃げろって。俺も一瞬かもしれないが、足止めにはなるだろ?」
「でも……」
「俺は大丈夫だ。テティカには『あとを頼む』って言ってある。その為に、必要なことはしてきたからな」
「?」
「俺、奴を倒したら、テティカと結婚するんだ」
「絶っっ対やめたほうがいい」
「はあ!? なんでだよ!」
「それは前世では『死亡フラグ』って呼ばれていて、結婚するんだ、のあと、必ず帰らぬ人になるんだ」
「縁起でもないこと言うな! それに何だよ、前世って!」
「いいから、結婚のことは考えるな!」
「いいや、結婚するね! 俺とテティカは愛し合ってるんだ!」
「それはいいことだけど、とにかく今はダメだ!」
奇跡的に押し問答と、こんにゃく問答が同居している。しかし、二人とも全く気づいていない。
僕らはようやく巣穴を視認できる岩陰にたどり着いた。
「よし、このポイントが奴の巣穴がギリギリ見える場所だ」
「……ここが」
「迂闊に顔を出すな。奴からは見えている可能性がある」
僕は固唾を飲んだ。大きな洞窟があった。しかし、そこには言いようのない違和感があった。自然の山や崖にできた穴ではない。それはまるで、岩を組み上げ、泥で塗り固めた、フードのような形をした人工的な城塞だった。
「この洞窟、前からあった?」
「いや、なかったはずだ。たぶん奴が作ったんだ」
僕は戦慄した。入口はおよそ横幅二十メートル、高さ十五メートル。こんな巨大なものを蟹が作ったというのか。
「僕が様子を見ながら近づいていく。合図をしたら飛び出してくれ」
「待ちな。先にこれを使う」
スキュアルドが袋から何かを取り出した。
「これはテティカ特製の自動操縦する囮だ。匂いのある魚の骨格に、泳ぐ機能がついている。自動操縦って言っても大きく孤を描いて泳いでいくだけだけどな。ただ、深さは保つようになっているからすっ飛んで行ったり、砂に突っ込むこともない」
ローテクなんだか、ハイテクなんだか。
「因みに何の匂い?」
「漬け魚」
「……ブレブ寄ってこない?」
「……旦那、好きだからな。でも味は変えてある。因みに巣穴の近くに行ったら匂いがより一層出る仕組みだ」
「ハイテクだ」
スキュアルドは囮を合計三尾、いっせいに発射した。ゆっくり孤を描きながら泳ぐ。巣穴に近づいたと思った瞬間、ボシュ! という音と共に匂いの煙を四方に噴き出した。
「目立ちすぎじゃない?」
「その方がいいんだ。リベル、あとは頼んだぞ!」
僕は迂回して巣穴へ忍び寄る。その時だった。
ブワッ! と砂が舞いあがった。視界が遮られる。
ドドドド! なんだ? 魚の囮が変な動きをした。まるで見えない何かに攻撃されているように。
ゴオオオ! ひどく水流が入り乱れる。
あ、囮がいない! と思った瞬間。
ドスッ! ドスッ!
背中と脚に、鋭い痛みと衝撃。
「ぐあっ……!?」
体が動かない。指先すら、言いなりにならない。
ゴボボボッ!
濁った水の向こうから、巨大な影が浮かび上がった。




