ルナティック=リバース 第十五話 〜推進器と外したゴーグル〜
工房の裏手にある空き地で、推進器の試運転を行うことになった。
テティカはスキュアルドの体を回りながら、バッテリーを繋いだ装備を点検していく。
「超高熱ユニットは一撃必殺……二度とやり直しは効かない。その点は私たちを信頼してほしい。でも推進器ならテストできる。あと、スキュアルド。髪、邪魔だから切るね」
「は?」
バツン、バツン、バツン!!
乾いた音が響き、スキュアルドの髪がハサミで容赦なく切り落とされた。
「ちょっ! お前、何してんだ!」
「推進器に髪が巻き込まれたら困るから、切った」
「お前、だからと言っていきなり切ることはないだろ!?」
「この髪を『スッきゅん』だと思って大切にする」
四人ともなんとも言えない顔で固まった。テティカは切った髪を強く握りしめた。その場にいた全員が覚悟している。もう会えないかもしれない、と。
「ああ……もう」
スキュアルドは深いため息をつくと、テティカの瓶底ゴーグルを外した。二つの丸い跡が付いているが、素顔は息を呑むほど美しい。
「……近眼だから、それ外すと何も見えない」
「じゃあ、これで見えるか?」
スキュアルドはテティカにキスをした。
彼女は少し固まったあと、急いでゴーグルを装着した。おそらくフレームの内側にはスキュアルドの髪が入っている。
僕は覆った顔の指の隙間から二人を覗き見ながら、そもそも通算年齢的にはこんなことしなくてもいいのでは? と自問自答したが、とりあえず自分でも混乱していることだけは確かだった。
「いい? 推進器は基本的に体に対して垂直に加速する。あとはコツ掴んで」
「一番重要なところを省略してくれてありがとうよーー!」
スキュアルドが花火のように、垂直にすっ飛んでいった。……速すぎる。
「だ、大丈夫!?」
僕が追いかけようとした瞬間、凄まじい勢いでスキュアルドが戻ってきた。
「おいーーこりゃあーーすごいぜ……!!」
僕の周囲をグルングルンと高速で旋回する。テティカの「コツを掴んで」としか言わなかったのも、ある意味正しかったのか、と思った矢先。
グオン!!
スキュアルドが急激なスライドターンを決めると同時に、僕の目の前で停止した。
おお! カッコいい! と言おうと思った瞬間。
「……おええええ!!」
彼はガチで吐いた。
「そりゃそうじゃ。今まで感じたことがない速度で泳ぎ回れば、三半規管が耐えられん。ましてや深度の上昇と下降を繰り返せば、なおさらじゃ」
「大丈夫。そういう意味でもコツ掴むためにはスッきゅんの体に覚え込ませるより他にないと思って、言わなかった」
あんたらは鬼か。
「はあ、はあ……でも、コツは掴んだぜ……」
スキュアルドもタフすぎる。吐瀉物の近くに魚が群がってきたが、撒き餌ならぬ『吐き餌』とはこのことか。
「よし、俺の準備は整った。リベル、お前はどうだ?」
僕はゲロから離れつつ、静かに頷いた。
「じゃあ、城へ行こうぜ。女王が俺らのために晩餐を用意してくれている」
僕ら四人は城へと向かった。




