ルナティック=リバース 第十四話 〜一縷の最終兵器〜
「……本題に入ってもよいか?」
さすが親方。本当に信号機も作れそうだ。
「まず、目下の敵は巨大蟹。奴は超高速で動き回り、装甲も槍では傷一つつけられん。極めつきは麻痺だ。それらによってスキュアルド以外の兵士は全滅した。国王を含めてな」
スキュアルドとテティカの表情が険しくなる。そうか、スキュアルドにとっては叔父、テティカにとってはお父さんなんだ。僕は唇を噛んだ。
「はっきり言って、なすすべがない。だが今までは、な。戦況が変わった。リベル、お前さんだ。詳しく話してくれ。何ができる?」
僕は自分の技――仮に『スキル』と呼ぶことにしよう――それらを列挙した。
【リカヴァー(治癒)】
【バイト(咬壊)】
【スウィム(速泳)】
【ブリーズ(呼吸)】
【コンフォート(適応)】
【ナイト=ヴィジョン(暗視)】
【スティング(刺突)】
【テア(裂破)】
「うむ……部位によって発現する能力が違うものもあるのか。すさまじいな」
「たまたま繰り出せるようになっただけで、不安なんです。僕は魔法力がない。このスキルがいつまで持つかも分からない」
「しかし、やるしかないじゃろ。そもそも急に『スウィム』や『ブリーズ』が使えなくなったら、一巻の終わりじゃ」
僕も怖くなって、ブルッと震え上がった。せめて一巻以上は続いてほしい。
「問題は、どうやってその装甲をこじ開けるかだ。……できそうか?」
「やってみるしかないでしょうね。スキュアルドは実際に戦ってみてどうだった?」
「奴の攻撃がその三つの問題点で撹乱されすぎて、細かい動きまでは分からなかった。俺もバラバラになった仲間の体と、血で視界が悪くてな。聞こえてくるのは『素早すぎる』『槍が通じない』『体が動かない』という悲鳴だけ。かろうじて見えたのは、叔父貴の最期だった……」
「多勢での対抗が、天然の煙幕になってしまったわけか。だが、その英霊たちの想いは決して無駄にはせん」
一同は少しの間、沈黙した。
「奴は確かに『蟹』に違いなかったんじゃろうな?」
「討伐隊との戦況が混乱する中、俺はたまたま見えたんだ。素早く巨大な蟹がハサミで仲間を千切る姿を。あんなデカい蟹、見たことがない……」
「装甲やら麻痺が通じるかは置いておいて、速さで勝てそうか?」
「……自分だけではちょっと無理そうだな」
「リベルの速さはどうだ?」
「おそらく現時点ではスキュアルドより少し速い、くらいかな」
「そうか。テティカ、スキュアルドのあれを持ってこい」
テティカは工房の奥から、槍の先端のような部品と、四個の拳大の塊がついたベルトを取り出した。
「これは?」
「まずはこれを取り付ける」
テティカはスキュアルドの胸と背中に、ベルトを装着していく。
「苦しくない?」
「……今のところは」
エラを塞がない絶妙な配置だ。
「これはなんだ?」
「推進器。スキュアルドの魔術を発動すると加速する」
「おい! 先に言え! 天井に頭が着くだろ!」
「大丈夫。まだバッテリーつけてない」
……夫婦漫才が繰り広げられている。
「ったく。で、これは?」
「こう使う」
テティカはその先端を、スキュアルドの三叉槍の真ん中に装着した。
「これは……?」
「儂から説明しよう。これは『超高熱ユニット』じゃ。国中のコンロで使っている魔術回路を、一瞬だけ文字通り超高熱にする。今のまま使っても、槍の先端が熱くなるだけじゃ。だが、装甲を剥がして内部に刺した状態で起動すると、内部から泡立って爆発する」
「なんだって!?」
「ただし、条件は厳しい。装甲を剥がし、内部を露出させ、さらにこのユニットを刺さなければならない。しかも一瞬の接触で一度しか使えん。水中で、かつ装甲がある状態で使っても無意味じゃ」
スキュアルドは固唾を飲んだ。
「リベルよ。どうにか装甲を剥がし、内部を露出させてくれ。全てにおいて無理は承知じゃ。奴が空腹でこの国を含む一帯を食い尽くす前に、ケリをつけてくれ」
僕とスキュアルドは目を見合わせた。
やるしかない。




