第三章 第百二十二話 〜大迷宮の螺旋〜
「グオオオ!」
「ギイイ!」
狭めの螺旋階段には複数体のクマと大グモがいた。
ギュッ――
ロビニアが僕の肩の服を掴む。
「大丈夫だよ。見ててね――『パラライズアロー』!」
ドドドドドド!
「グオッ!」
「ギイッ!」
あっけなくクマとクモはピクピクと動かなくなる。やはり麻痺に矢を組み合わせると汎用性が高い。
「……強すぎない?」
「たまたまだよ。そんな人生を送ってきただけだから」
「どんな人生だよ……ボクも弓矢が使えたらいいんだけどな」
「ああ、そうか。攫われた時に無くなったのか……」
「そう。もしそれがあればリベルの役に立てたかもしれないのに」
「心配しなくていいよ。僕の腕から出る矢は無限だから。ただまあ、あんまりにも使いすぎると疲れて眠くなっちゃうけど」
「そんな弱点が……にしても、やっぱり弓矢じゃ大して役に立てそうにないね……」
「今のところはそうかもね――」
僕は次々とモンスターを斃し、下へ下へと降りていった。よく見ると、階段の外側の壁には横穴が開いていて、そこから敵が出てきているようだった――つまり、転移前の場所と同じシステムだ。
整理すると、迷宮に入る前は広い螺旋の坂で、外から内へと直径が狭くなっていく構造をしていた。水を張った桶に小さな穴を開けると、渦を巻いて底に流れていくと言えばいいのか、螺旋のすり鉢と言えばいいのか。
一方、今僕らがいる迷宮内部の転移後の場所は、直径が一定の巨大な『塔』のような構造になっているらしい。その外側に緩やかな螺旋階段が巻かれているような感じだ。ボルトと言えばいいのか、丸棒に糸を巻きつけたと言えばいいのか。
なので前者の天井は繋がっていて、全部同じ高さだった。しかし、ここでは『階段の下部=天井』なので、それから考えると天井が低い。
「不思議な迷宮だな……まあ今のところ、まだ迷宮らしい部分はほとんどないけど」
「ずっと同じような景色が続いているだけだもんね」
ただ、敵の種類は移り変わっていた。一番上はクマと大グモ、二番目は大コウモリと大ガエル、三番目はオオカミと大トカゲ、四番目はイノシシと大ムカデ……といった具合だ。だが、修羅場をいくつもくぐり抜けてきた僕にとってはさすがに敵ではなかった。
「……キミ、いくらなんでも強すぎない?」
「いや、色々と事情があって」
「さっきなんて矢の効果、麻痺どころか『毒』も付与してたでしょ?」
「いや……ちょっと……色々と事情があって……」
「なんでそこで意気消沈するのさ」
「なんでもないよ……ウプッ……」
「なんかトラウマでもあるの?」
「いやいや! そんなことはない! 断じてない! ――そういえば、ロビニアはお腹空いてる?」
「実はだいぶ空いてる……攫われてからだいぶ時間が経っているから」
「ああ、そうだよね……ゴメンね気が付かなくて」
「仕方ないよ。お互いに緊急時だったから。リベルもお腹空いた?」
「うーん、空いたと言えば空いたかな。僕あまりお腹が減らないんだ。食べる時に食べるし、自分で料理する時に食べる、って感じ」
「あ、そうなんだね。ボクも料理はするよ。獲物の処理とかも自分でするからね。自分の国では料理できることは当たり前かな」
「ところが、中には超絶料理音痴っていう人もいるからね……料理が生物兵器に変わる人も――」
「そんな人いるの!?」
「それについては黙秘権を行使します」
横穴に入って安全を確認したあと、僕は
カバンから魚の燻製と硬めのパンを出してロビニアに手渡した。一日前に食糧をいくらか買っておいて良かった。結局テンペスタ・ラクスではパスタを食べただけだったな――ロビニアに至ってはもっと腹ペコか。
「水もあるからね。このスキットルは見た目よりも容量があるみたいだし」
「ありがとう! ボクもカバンがあれば少しは食糧あったはずなんだけどな……」
「仕方ないよ。あ、パン、切ったほうがいいなら言ってね。『テアブレード』で切るから。汚れもつかないし」
「……ありがとう」
僕ら二人は螺旋階段の中腹で腹を満たした。




