第三章 第百二十一話 〜二人の出自〜
「さて、お互いにスッキリしたところで、いよいよ本格的にやろうか。ロビニアは僕が背中で守るから大丈夫。片マントも君の頭にかけたし、防御の面でもバッチリだ」
「ゴメンね、ボクばっかり……」
「問題ないよ。じゃあ行こうか」
「分かった!」
僕は罠の可能性も考慮しつつ、床一面を眺めた。やはり謎の文様が書かれているだけで、特に今のところは問題はなさそうだ。
「せめてこの文様が読めれば何か分かるのかもしれないけど……」
「『時の大迷宮』『無限』『繰り返す』『彷徨う』『時空』『歪む』『出られない』……とかって書いてあるね」
「……え!? 読めるの!?」
「昔のこの地方の言葉だよ。ボクは使わないけど。でもまだそんなに有力な情報じゃないね」
これは嬉しい誤算だ。まさか彼がその文字が読めるとは。しかし、ここで疑問が浮かんだ――
「……ねえ、ロビニア。君は一体何歳なの?」
「ボク? ボクは二十歳。子どもだよ」
「……えええ!? 僕より年上!?」
てっきり子どもだと思っていた。いやまあ、人を見た目で判断するのは良くないな。
「そういうリベルは何歳なのさ?」
「僕? 僕はそろそろ十一歳になるくらいかな……」
「めちゃくちゃ子どもじゃん……って言っても、寿命が違うだろうから仕方ないか」
そうだよな。そもそも単純に『年齢』を基準にするからダメなんだ。あくまでもそれは一年の単位に過ぎなくて、『全体の寿命』から考えないとおかしなことになる。
例えば人間五十年と言われていた時代は十歳を過ぎたくらいでも成人と言われていたし、ちゃんと医学が発達して色々心がけるなら百五十歳くらいは生きられるんだから、その場合は三十歳で成人となってもおかしくはない。
「因みにロビニアの種族の寿命って何歳くらいなの?」
「五百歳……とかかな」
「それは長生きだね……何の種族なの?」
「ボクはエルフだよ。ほら、ちょっと耳が尖っているでしょ?」
僕は左肩後ろのロビニアを見た。確かに言われてみれば耳が長い。救出劇に一生懸命過ぎて気づかなかった。
「キミは何の種族?」
「僕は人間だよ――たぶん。最近、段々と自信がなくなってきたけど……」
「まあ確かに、人間にしては変な技を使うような……」
「そうなんだ……」
彼にとって僕は変らしい――
「い、いや、いいことでしょ! そのおかげでボクは助かったんだから!」
「そうだね――ところで、この広い円形の部屋で、出口は――あそこかな……?」
「ホントだ。壁に開いてるね」
「じゃあまず、そこに行ってみよう」
二人で部屋の中心から出口まで慎重に進む――だが、特に何もなく、あっさり辿り着いた。拍子抜けだが、油断はできない。
そしてそこには先ほどよりは狭めの螺旋階段が続いていた。結局またこれか。
「敵が出てきたり、罠が仕掛けられているかもしれないから気をつけてね」
「うん」
僕らは背後にも気を配りながら、ゆっくり階段を下っていった――
「そういえば、ロビニアはどこから来たの?」
「ボクはエルフの国、エヴェラントだよ。広大な森林が広がっているところなんだ。そこで狩りをしようと息を殺していたら、むしろその時を狙っていたみたい。突然、背後から攫われてしまってさ……」
「なるほど……」
「リベルがいなかったらボクは殺されていたと思う。しかも『触媒』とかわけの分からないことを言っていたし――すごく怖かったよ」
「そっか……」
「リベルはどこから来たの?」
「僕は港町ベルグハーフェンからだよ」
「……? そこって近いの?」
「いや……歩いて十日くらいかかるかな」
「遠いじゃん! なんであの場所にいたの?」
「僕はあちこちを旅している最中でね。テンペスタ・ラクスの宿に入ろうとしたら『助けて!』って声が聞こえてさ。それで追いかけたら危ないところだった、という感じかな」
「そうだったんだ……え? 『声が聞こえた』って、そんなすぐ近くにいたの?」
「ううん。僕には遠くや小さい音、気になる音が聞こえる『ヒア』っていうスキルがあってね。それで一瞬だけ『助けて!』って聞こえたんだよ」
「……やっぱり、人間じゃないんじゃ……」
「やめてよ……最近、自分でも気にしているんだから――」
そんなことを二人で話していると、
「グオオオ!」
「ギイイ!」
階段の先からモンスターの声が聞こえてきた。




