第三章 第百二十三話 〜壁に囲まれた大迷宮〜
「よし、お腹も満たせたし、先に行こうか――というかどこまで下ればいいんだ……?」
「そうだね。ずっとグルグルしているだけで変わらないもんね」
僕らは再びお互いを光の縄で繋げて、探索を続けた。モンスターの種類は変わったけれども、螺旋階段は続いている。
「どこまで行けばいいんだ、本当に……」
「ほぼ見てるだけだけど、それでも飽きたね……」
すると階段の先に明かりが見えた。顔を見合わせた僕とロビニアは無言で頷いた。
そしてそのまま急いで駆け下りる。
ダダダダダ――
僕らは絶句した。
「……何ここ」
「……これが……『大迷宮』?」
目の前に現れたのは、生け垣の壁だった。ただ、十階建ての建物にも及ぶほどの高さだ。そしてよく見ると、壁には先ほどと同じような文様が描かれている。それにびっしりと棘の生えた蔦が絡みついていた。
上を見れば天井は日の光のごとく輝いていて、床もそれを受けて光合成しているかのように蔦の絨毯が敷き詰められていた。ただ、壁と違って棘はない。
それらがまさしく巨大な迷路になって、そびえ立っていた。
「どうしよう。面白そうよりも、めんどくさそうが勝つ……」
「たしかに。特に床一面の蔦が歩行に邪魔だね……」
「そういえば、あの時はよく見えてなかったけど、たぶん転移される前の空間にはこれの蔦なしバージョンの迷宮が広がっていたんだろうね」
「なるほど。まあ今となってはそもそもいつ出られるかも分からないけどね」
「そうだね――」
僕は壁の棘付きの蔦を『テアブレード』で切ってみた。結果は惨敗。蔦と棘はすぐさま復活するし、壁には傷ひとつつかない。
「これは『グラスプ』で壁の上に登ってもキツそうだな――なんなら、それを感知した瞬間に棘が伸びるか増えそうな気配すらある」
「ああ、ありそうだね……」
「しょうがない。正攻法で行くか」
僕はカバンから糸綴じノートと鉛筆を取り出した。因みにこの世界でも、まあまあな筆記技術はある。さすがにボールペンやシャープペンシルのようなものはないけど。
それとさすがに深海では、手軽に書いて消せるようなものはなかった。イカの胴体をなぞると色は変わるけどすぐに元に戻るし、石板を削るのはかさばる上に重いし――
「何してるの?」
「マッピング――簡単に言うと、地図を描こうと思って」
「それ、得意だよ。大森林では描いてたし。ボクがやろうか?」
「本当? じゃあお願い!」
サッサッサッ――
僕の背中をキャンバスにしてロビニアは製図する。後ろで何をどうやっているのかが気になるけど、イーゼルが動くわけにはいかないので直立不動だ。そして幸い今のところ敵の気配はない。
「こんな感じ」
突然僕の視界がノートで塞がれた。自分の両手で持ってみると、一切迷いのない線で精巧な地図ができていた。
「上手っ!!」
「そう? よかった、ボクも役に立てそうだね!」
「いや、すごいよ。僕がやったら線は曲がるし、何重にもなるし、長さも上手くいかないし……」
「そこまで褒められるとは……」
彼は照れているのか僕の背後でモゾモゾしている。
「この調子で少しずつマッピングしていこう! モンスターに気をつけながらね。どこか休める場所とか、水場も確保できればいいんだけどね」
「たしかにね……?」
ドシン――ドシン――
「リベル、何か聞こえない……?」
「……聞こえる……」
僕とロビニアは音のする方を向いた。すると右奥の通路の突き当たり――その左から――
ヌッ――
壁と同じ高さの巨大な石像が姿を現した。




