第三章 第百十九話 〜時の大迷宮と転移〜
「ちいっ! 『触媒』が飛び降りたぞ!」
「我々も続け!」
上から声が聞こえてくる。だがこちらとしては着地する方が先だ――?
「ね、ねえ! 深くない!? この穴!?」
「そ、そんなことないよ! 大丈夫、僕が守るから」
と言いつつ相当深い。小さく見えていた『底』の文様は実は相当大きかった……
「とりあえず、もう一度『グラスプ』で僕らの体を固定して、と……」
「ちょっと! 床に着いた瞬間にベチャってミンチになっちゃうんじゃないの!?」
「大丈夫! しっかり掴まってて! 『アロー』!」
ドドドドドド!!
僕は両手で光の矢を床に向かって連射した。すると反動で速度が緩やかになる――が、依然としてまあまあなスピードであったことは否めなかった。
「ほらあ! あんまり変わってないじゃん!」
「大丈夫! 『ロングテアブレード』!!」
ブオン!!
僕は計六枚の刃を五倍ほど長くし、着地を試みた。
「うわ! すごい!」
「これで……どうだ!!」
ガガガガガガッ!!
頑丈な『底』では刃は一切傷つくことはなく、衝撃の吸収に成功した――かに見えたが、収まりきっていない。
「うわああ! どうすんの!?」
「それならもう一度『テアブレード』!」
ガガガガガガッ!
咄嗟の二段構えの光の刃は、今度こそ完全に衝撃の吸収に成功した。
「ううう……ちびるかと思った……」
「ね? 大丈夫だったでしょ?」
「その割にはかなり焦っているように見えたけど……」
ジト――
彼は疑いの眼差しを僕に向けた。
「そ、それより、今『グラスプ』――光の縄を解くね。僕もずっと片マント顔に巻いたままだったし」
彼の『グラスプ』を解除して、床に立たせた。僕も片マントを左肩に垂らした。
「……ふうっ、ようやく一息つける。君、怪我はない?」
「……な、ない」
彼は急にモジモジし始めた。人見知りなのかな。
「僕の名前はリベル。君は?」
「ボクは……ロビニア」
「ロビニア、よろしくね」
僕は彼に右手を差し出す。
「よろしく、リベル」
こうして二人の握手が成立した。
ゴゴゴゴゴゴ――
突然、地鳴りがし始めた。
「う、うわあ!!」
「な、なんだ!?」
すると床の文様が光り輝き始めた。
「何? どうなってるの!? ってうわあ!」
「どうした!? え!? ロビニアの体が光ってる!?」
「助けて! リベル!」
僕は彼の体を抱きしめた。
「大丈夫! 僕がなんとかする――」
「リベル――」
ヴン――
その場には静けさだけが残っていた。
(俺は、彼女を、愛してしまった)
(愛すべき人ではなかったのに)
(せめて、最期はこの手で――)
――ハッ!
僕は意識を取り戻した。
「自分ではない誰かの夢を見ていた気がする……あ! ロビニアは!?」
急いで近くを見渡すと、横たわっている彼の姿が見えた。
「ロビニア! 大丈夫!?」
肩をガクガクと揺らした。
「う、うーん……あれ……ここは……?」
「ここは城の地下にあった、『時の大迷宮』だよ! ……たぶん。飛ばされちゃったから定かではないけど……」
二人で周囲を眺める。おそらく、『時の大迷宮』であることは間違いないらしい。似たような景観と文様が見える。
「まずはこの辺りを探索してみようか。大丈夫? ロビニア」
「うん。ボクは平気」
「よし。慎重に行こう」
こうして僕ら二人の『時の大迷宮』の探索が始まった。




