第三章 第百十八話 〜城の地下の螺旋〜
僕は粗相兵に言われたとおり、直線の通路を先へと急いだ。そのずっと奥には明るい光が漏れている。
するとこちらに気づいた兵士が二人、槍を僕の方へ向けた。
「おい! なんだ! 貴様は――ぐあっ!」
「どうした!? うぐっ――」
『パラライズアロー』を容赦なく浴びせる。悪いけど雑魚に構っている暇はない。
二人を倒して広い空間に出ると、そこは地中海の家の壁のように綺麗な、白く光る円形の部屋だった。奥底と中心に向かって、螺旋階段になっている。外側から内側に反時計回りになっているといえばいいのか。
「賊が侵入したぞ! 暗部の連中を守れ!」
あちこちから増援部隊がやってきた。だがそれを全て無視し、階段もすっ飛ばして最奥部へと跳んだ。
「なんだと!?」
外周部で呆然と立ち尽くす兵士たちを尻目に、僕は迷宮の入口へと向かう。しかし、このままだと複雑骨折してしまうので――
「『テアブレード』!」
ズガガガガガ!
両腕の計六枚の光の刃で着地した。
「――すげえ」
「敵に感心してどうする! 我々も続くぞ!」
まあ、彼らにとってもこの螺旋階段を降りるのは、相当骨が折れることだろう。
自分は『時の大迷宮』と呼ばれる場所の内部へと侵入し、そこからまっすぐに続く、階段を駆け降りた――
「ここで曲がるのか――」
しばらく行くと突き当たりだったが、左に直角に道が続いていたので階段をさらに降りる。これは大きく左にカーブしている――ということは、またしても反時計回りの螺旋階段ということか。
やがて視界が開いて、地下の巨大な空間に出た。先ほど兵士たちを置き去りにした場所よりも遥かに広い。
やはりここも、外から内、上から下に向かう渦を巻いた場所だった。ただ先ほどと違うのは階段ではなく、緩やかで幅のある坂であるということだった。城の地下がこうなっていたとは……
「ギシャアアア!」
「ゴアアアア!」
すると横穴や地面から次々とモンスターが出てきた。モグラや大きな虫、ネズミなどだ。
城の地下にこんなものがあるとは予想外だった。ああ、だから『冒険者御用達』なのか――と思っていたら、声が聞こえた。
「ムグー! ムグー!」
「ええい! 大人しくしろ! 心臓が狙えないではないか!」
目を凝らしてそちらを見ると、中央に直径十メートルほどの大きな丸い穴が開いていて、そのすぐそばに黒のローブを着た連中が小さな子どもを囲んでいた。そのうちの一人が禍々しい紫色のオーラを纏った剣を持っている。もはや一刻の猶予もない。
「『バスター』!」
ドンッ――!!
僕は加速し、『走り幅跳び』の要領で穴の中央へとジャンプした。因みに坂にいたモンスターたちは状況が理解できず固まっている。
「キイイイ!」
「グルワアア!」
大コウモリやらワイバーンみたいなものがこちらに向かって襲いかかってきた。一瞬、邪魔だと思ったがむしろ好都合だ。
「『グラスプ』!」
ビュッ――!
ワイバーンの尾を光る縄が捕まえた。
「グルル!?」
困惑するそいつをよそに、縄を引き戻して加速する。さらに次の獲物を目掛けて手と縄を伸ばしては引き戻す。
僕の目には『宙に浮かぶ足場』があちこちに映っているのも同然だった。
「『グラスプ』――『グラスプ』!」
モンスターからモンスターへと渡り、ようやく射程距離に入った。
「『パラライズアロー』!」
ドドドドドド!
「ぐあっ……!」
「なんだ……!」
取り巻く敵を二人倒した。僕はすぐさまその子に向かって『グラスプ』を繰り出す。
ビュッ――!
「えっ……何!? ってわあああ――!!」
光る縄によって子どもが引き寄せられて――
ガシッ!
空中でようやく僕は、彼を左腕で抱き留めることに成功した。
「大丈夫、僕は味方だ。助けに来た。しっかり掴まってて」
「え? どういうこと……ってわあああ!!」
重力で地面が僕たち目掛け目前に迫る――
「助けてえええ……!!」
「口閉じてて――『テアブレード』!」
ガガガッ!!
右腕の光の刃、三枚あるうちの中央の一枚を外側に開くことで三脚――鼎の形にして、衝撃を和らげた。
「キミ、すごいんだね……」
「話はあと。奴らが何をしてくるかは分からないから――」
僕たちは敵を睨みつける。すると剣を持った一人がこちらを指差して怒りだした。
「キサマ! 『触媒』をどうする気だ! それは我々のものだ!」
僕は小声で耳打ちする。
「……何か詳しいこと知ってる?」
「ううん、分からない。ボクが森で遊んでいたら攫われたってことだけ……」
カチンときた僕は敵に叫んだ。
「お前ら、この子を攫って来たのか! 何考えてんだ!」
「キサマらに話す理由はない! いいから『触媒』をよこせ!」
「ふざけんな! 『触媒』だかなんだか知らないが、この子は渡さない!」
「なんだと……! 我々がどれだけの苦労でここまでやってきたと思ってる! 皆のもの、出合え出合え!」
ババババババ……!!!!
横穴の中から多数の敵が出てきた。ざっと二百人くらいか。
「いいか、お前ら。『触媒』は何があっても殺してはならん。だが、多少痛い目に遭わせるのは許可する。回復させればよいからな。賊は速やかに始末しろ。かかれ!」
シュタタタタ――!
音を殺しこちら目掛け一斉に襲いかかってきた。この子には指一本触らせない!
だけど、守りながら戦おうにもどうすればいい……?
パラッ――コロコロ――
後退りしていると床の小石が落ちて、大きな穴の底が見えた。よくよく見ると穴の内部に古代遺跡の文様のようなものが刻まれていて、『底』があるのが確認できた。僕は左腕にいる彼に語りかけた。
「もっかいちゃんと掴まっててね! 舌噛まないように!」
「わ、分かった!」
ヒュン――
『グラスプ』で互いの体を固定したまま、僕らは穴の『底』へと飛び降りた。




