第三章 第百十七話 〜城の裏口の地下〜
(どこだ!? どこの方から聞こえた!?)
僕の『ヒア』は広く浅く聞くこともできるが、助ける声など一部のニュアンスを含むワードも聞こえるようになっていたらしい。これも『適応』なのか? しかし、向こうの声や音は聞こえても、こちらから伝える手段はない。ひとつ便利になったと思えば、ひとつ壁にぶち当たる。
(たしか、子どもの声だったような気がする。おそらく、今向かっている城の方だと思えるが、確証はない……他の音が聞こえればいいのだが――)
すると、どこかで男たちが声を上げているのが聞こえた。
(うるせえ! ちゃんと黙らせろ)
(早く『時の大迷宮』に連れて行くんだ)
(南口の水路から入る。合図を送れ)
(城の内部からさらに地下に潜るぞ)
敵の声は通常こちらに聞こえるわけがない。だが僕には『ヒア』がある。彼らの会話を参考にそちらに向かわなければ。
(わざわざ重要なヒントを出してくれて助かったよ。『グラスプ』!)
ビュッビュッ――
僕は暗くなりかけている街のビルの上空を飛んだ。目指すは城の南口の水路だ――見えた! あそこか!?
ギッギギギ――
鉄格子でできた門が閉じようとしている。僕は急いでその水路目掛けて『スウィム』で飛び込んだ――
ドボン!!
水飛沫と共に大きな音が立つ。
「な、なんだ!?」
「敵か!?」
まあ確かに向こうにしてみれば敵はこちらだ。だがそんなことを考えている暇もない。
「『パラライズアロー』!」
シュババババ!
「がっ!」
「うっ!」
僕は水面から両手を出し、二人の兵士を麻痺させて倒した。ピクピクと痙攣していて意識はない。
因みに今回の『パラライズアロー』は毛針タイプだ。こんなこともあろうかと思ってある程度出力調整もできるように修練を積んでいたのだ。どうせ矢が刺さったあとは消えるので、穴と麻痺した事実だけが残る。
あとはしばらくしたら復活するはずだ――厳戒態勢は敷かれると思うけど。
僕はびしょ濡れの髪と服を『コンフォート』で乾かした。よくよく触って確かめてみると、片マントもカバンなどもすっかり乾いていた。ちゃんと自分の一部と認識されたらしい。良かった、さすがにマントはカーテン並みに重かったから……
(さて、城の内部へと潜入することには成功した。ここからその『時の大迷宮』に向かうにはどうすればいいんだ……?)
カツンカツン――
すると足音がこちらに向かってくるのが聞こえた。ちょうどいい、その人に尋ねてしまおう――
僕は角で待ち伏せをした。顔が割れるとまずいかもしれないので、マントで顔をグルグル巻きにした。セイクルからもらったバンダナも隠れるように調整して。そして、左手だけ通路に突き出した状態で『パラライズアロー』をばら撒いた。
「な、なんだ!? ぐあっ……!」
ドサッ――
彼の視界にはチラッと赤マントの怪しい覆面が映ったかどうかは定かではない。しかし、自由を奪われたのは確かだ。
今回の麻痺矢は前の時に比べて微細なので、さらに威力が弱くなっているはず。身動きは取れないが小声でも話せるだろう。
僕は麻痺している兵士のもとへ音を立てずに駆け寄った。気分は忍者だ――実際に会ったことはないけど。
「『時の大迷宮』はどこだ?」
自分の精一杯の低い声で話しかけた。やったことがないから喉が痛い。あとで『リカヴァー』しておこう。
「こ、この道をまっすぐ行くと外周がらせん階段になっている場所がある。それを降りて中央へと進んだ場所だ……」
床を向いたまま彼は答えた。
「――やけに素直に吐いたな」
「そ、そりゃ冒険者御用達の場所だから、この街に少しでも詳しい奴なら誰もが知っている……」
「……」
もうちょっと早く知りたかったが、まあいい。
「ここに子どもが連れてこられなかったか?」
「し、知らん!」
「これを見てもそんなことが言えるかな?」
僕は『テア』を彼の目の前に差し出した。石造りの床に穴が開く。
「ひっ、ひいいい! 本当に知らないんだ! ただ、暗部の連中がこの場所を通るから、人払いをしておけとは言われた! その時間は冒険者も通らせないように、と」
「……そうか」
どうやら嘘ではないらしい。というのも脅しすぎたのか、股間のあたりに水たまりができてしまっていた。
「しばらくすると動けるようになるはずだ。悪かったな――」
僕は彼にそう言うと先ほど言われた場所に急いだ。ただ、粗相に関してはさすがに反省している……どうか水に流してほしい。




