第三章 第百十六話 〜湖の城塞都市〜
「ここが……城塞都市テンペスタ・ラクス……」
僕は今、パンケーキを食べた町から三日かけた場所、超巨大建造物の真ん前に立っていた。
あまりの大きさに絶句している。港町ベルグハーフェンの倍はある城壁に広い範囲で取り囲まれていて、さらにグルっと濠で城内から城外へと隔たれている。
門と橋は各所にあって、そこから道が放射状に延び、その隣には川――水路がある。
さらに手前には看板が立っていて、係の兵士なのか、槍と拡声器を持って何か喋っている。
「この先は関門です。一般の通行客は一番右、通行証を持っている方は一番左、各種ギルドカードをお持ちの方は中央の道にお並びください!」
凄すぎる。まだテーマパークに入ってないのにワクワクしてしまう感じだ――いや、よく考えたらそんなもの行ったことなかった……
僕は中央の列に並んだ。予想どおりこの列は一番速い。次いで左だ。そちらは馬車などもあるのでどうしても時間がかかる。右の列はやはり一番遅い。
そんなことを考えていたら自分の番がやってきた。僕はおばちゃんの時のようにギルドカードを丸い台にかざした。
「……!!」
係の犬の獣人兵士が何度も画面と僕の顔を確認する。
すると彼は急にかしこまって左胸に手を当てた。
「ごゆるりとお過ごしください!」
大声で挨拶された。ちょっと恐縮してしまう。
「あ、ありがとうございます。そういえば、この街に宿はありますか?」
彼は胸に手を当てたまま続ける。
「はい! 宿はこの道をまっすぐ行って、城の手前にあります!」
そう言われて、僕は門をくぐり街中へと入った――
「うわあ……!」
石畳の道を歩くとそこは水路が張り巡らされていた。橋も相当多い。アーチ状のものもあれば、浮いているものまである。
後ろを見ると、さっきの関門の隣の水路では船が行き来している。なるほど、ここでは水路がメインなのか。
建物は石造りが多く、ところどころ木も使われている。さらに船も相当多い。船なのか建物なのか、はたまた両方なのかも分からないものも多い。
停泊している小舟の近くでは出店が連なり、魚や肉、野菜や果物など勢ぞろいしている。だが、おばちゃんの言っていたとおり、植物系は貴重らしく価格が高い。五十センチのマス一匹と、とうもろこし三本が同じ価格なんだが……
しかし、城壁の内側にも幅が広い濠があるし、とにかく水量が多い。噴水もそこかしこにある。陸地の方がはるかに少ない。だから湖の城塞都市と言われるのか。
しばらく歩くとテラス席で食事をしている人を見かけた。数人が美味しそうにパスタを食べている。ああ、こういうのって憧れる……いや、食べればいいじゃないか。そう思い立って、その店に入った。
やがて水とメニューが運ばれてきた。
「すいません。ここのオススメはなんですか?」
「当店ではアサリの入った、らせん状の短いパスタが一番人気ですね。それを白ワインで蒸します」
「ではそちらをお願いします」
聞くだけで美味しそうだ。僕の作ったパスタはペペロンチーノとバジリコとかだったから――
コトン。
出てきたのはフジッリのボンゴレビアンコだった。正式名称は違うんだろうけど、大体のイメージはつけられるはず。
「いただきます――美味しい!!」
フォークでフジッリをパクっと食べるとアサリの風味と旨味が染み出てくる。そのらせんの中にスープが潜んでいるから。
(やっぱり、料理という意味でも色々と冒険したいな――)
「……ここ、宿じゃなくてホテルだ……」
僕は日が落ちかけている通りをまっすぐ歩いてきた。そこに出てきたのは地上十階の建物だった――というより、このあたりは背の高い建物が多い。言わばビル街だ。
この世界だと当たり前なのか? まあ、そもそも前世ではもっと当たり前だったか……?
僕はその大きな看板のホテルに足を踏み入れようとした。
だがしかし『ヒア』のスキルによって、かすかな声が自分には届いた。
(助けて――)
僕はそれを受けて即座に走り出した。




