第三章 第百十五話 〜動き出す時〜
モグモグモグ――
僕は眉間にシワを寄せながらプリンやフルーツ、パンケーキの盛り合わせを頬張っていた。さすがに目立ってしまったので自室で食べている。そんなつもりではなかったのに……
「本日は私ども従業員一同、大変失礼いたしました。リベル様の宿泊代や食事代などは全額サービスさせていただきますので」
メイドさんが淡々と説明する。まあ一番、今回の騒動に何も関与していないのは彼女だろう。二階までデザートも持ってきてくれたし。
よく小説や漫画、アニメで出てくる「俺、なんかやっちゃいました?」というものは、実際なってみると、ただただ気まずいだけだった……
「しかし、リベル様は本当に規格外でしたね。魔法力というわけでもなく――なんですか? あの光る『縄』は」
「ああ……話すと長くなりそうなので……内緒です」
「そうなのですか……」
なぜか落ち込んでいるように見えるメイドさんを尻目に、僕はデザートの続きを食べ出した。よくよく考えればアイスもプリンも食べたことなかったことを思い出した。前世の情報だけで食べた気になっていたのか……
すると何やらメイドさんの口からぶつくさとかすかな声が聞こえてきた。
(せっかくリベル様の立派な光る『縄』で私を縛り上げていただきたかったのに……)
急になんだかプリンが苦く不味く感じた。カラメルのせいだと思いたい――
次の日の朝、僕は身支度を整えて階段を降りてきた。すると女将のおばちゃんがこちらに気づく。
「おや、リベル様。ぐっすり眠れましたか?」
満面の笑みをこちらに向けられた。
様々な料金をタダにしてもらっているとはいえ、さすがに色々な対応にカチンと来てしまった。
「ええ……おかげさまで……」
僕は目をヒクヒクさせながら答えた。
「すみませんね、私どもも迷惑をかけてしまって。なので朝食は、貴重な野菜や果物を使ったサラダをメインとさせていただきましたので」
それを聞いて思わず首をかしげる。
「野菜や果物が……貴重?」
「はい。このあたりはまだいい方ですが、近くの城塞都市であるテンペスタ・ラクスでは花や果実といった植物がなかなか育たないんです。豊富な水が湧くことで湖にもなっているのに……まるで誰かに呪われているかのようです。昔は湖もなかったそうですが――」
「そうだったんですか……」
僕は運ばれてきた朝食を見つめる。何気ない料理に見えるけれども、貴重なんだな……よく味わって食べよう。しかし、土壌の問題なんだろうか? はたまた、全く別の問題なんだろうか――?
「お世話になりました」
僕は他の従業員に見送られ、宿をあとにした。
だが、例によって例のごとく、ボソボソとひとりごとが聞こえてきた――
(リベル様の縄を私の体に食い込ませて欲しかった……)
(リベル様、全然私の胸、見てくれなかったな……)
(次があったらいっそのこと、偶然を装って二人で挟んでしまおうかしら……それとも、太ももの方がいいかしら……)
(やれやれ。リベル様がいい人で助かったけど、こいつらは教育し直しだね……)
やっぱりろくでもない宿だった――
――ビシッ!
「また石がひび割れたぞ!」
「もうそろそろ限界だ!」
「代わりはないのか!?」
「あの案はどうなった!?」
「待て……今、総力を挙げて監視しておる。行動パターンは既に精鋭部隊に周知済み。あとはその機を待ち、捕らえ次第直ちに『時の大迷宮』で計画を実行するのだ!」




