第一章 第十一話 〜人魚の城〜
「うわあ……」
人魚の国の城壁は、色とりどりのサンゴで輝いていた。花びらのモザイク紋様を散りばめたような、それは見事なものだった。サンゴの間にはイソギンチャクが揺れ、色鮮やかな魚たちが泳いでいる。
開かれた城門には、城下町と同じく二人の門番と、通信使のイルカがいた。さらに配置された兵士たちは、スキュアルドに比べて明らかに重装甲だ。
僕らはスロープを上り、門番と挨拶を交わした。話が通っているおかげで通過はスムーズだったが、すれ違いざまにジロジロと横目で凝視された。
城内に入ると、外の喧騒が嘘のように装飾はシンプルだった。しかし、明るい。
大理石だろうか? 模様一つない白く光沢のある壁と床が続いている。そして、城下町と違って床には一切の砂がない。
「この先に女王がいるぜ」
スキュアルドに案内され、手すりのない白い階段を上る。
なぜ砂もなく、壁も床も白いのか。考えていたが、おそらく防犯のためなのだろう。砂があれば潜り込まれるし、模様があれば潜みやすい。これだけ真っ白なら、他を隠せても『目』だけは文字通り目立つ。
上階に着くと、そこには女王がいた。
美しい。そして、大きい。尾まで含めれば四〜五メートルはあるだろうか。彼女もまた鎧を纏っている。
側近の女性兵士二人も女王ほどではないが巨大で、こちらはさらに厳重な装甲に身を包んでいた。
天窓からは陽の光が差し込んでいる。
「女王。魚人の村の小さき勇者、リベルを連れて来ました」
城の威圧感と、場違いな『勇者』という響きに、僕はひどく緊張してしまった。
「こ、こ、こんにちは。リベルって言います。よろしくお願いします」
噛んだのか、あるいは舌の動かし方が下手なのか、上手く喋れない。
「か」
「か?」
「かわいいーー!!」
ぐええ……!
意識が混濁する中、耳元で無機質な声が響——
「響かなくていい!!」
「あ、ごめんなさい! 私、小さくてかわいいものに目がないの……」
脳裏に、うっすらと光る文字が浮かび上がっている。
【レバー三回転+P連打】
やかましい!!
スキュアルドが おそれおののいている
ようしょうきの トラウマが よみがえっているようだ
女王から解放された僕は、スキュアルドを睨みつけた。こうなることを分かっていて連れてきたな。彼は露骨に目を逸らした。ちなみに女性兵士二人は、便利なことに『瞼』があるらしく、三叉槍を構えたまま静かに目を閉じていた。
「と、とりあえず、私がこの人魚の国の女王、ベラルーナです。リベル、よろしくね」
「よろしく……お願いします」
肉体的な疲れか、あるいは精神的な疲れか。少なくとも『リカヴァー』で癒せる類のものではなさそうだ。
「ところで、早速本題に入りましょう。リベル、あなたは相当にお強いと聞き及んでいますが、それは本当ですか?」
「一応、村で一番です」
「女王、ここまでの道中で見せてもらったが、あれは本物だ。サメがあっという間に串刺しと真っ二つにされた。おかしくなった敵の魚人たちも、五十人は倒しているらしい」
「なるほど」
女王は少し思案した。
「ではリベル、この二人と模擬戦をしてもらってもいいですか? 刃のない模造槍で、あなたの実力を測りたいのです」
女王は両手を広げ、側近の二人を指し示した。
「いいですけど、僕も三叉槍を使うんですか?」
「え?」
「女王、こいつは素手だけでも戦えるんだ」
「ええ!?」
「一応、槍でも戦えますが、槍同士の技術戦なら僕の方が劣ると思います。それに、僕の戦い方だと手加減が難しい……こうしませんか? 僕は素手で、お二人は三叉槍。どちらかが戦闘不能になった時点で終了、ということで」
女王がスキュアルドに視線を送ると、彼は一切の冗談を排した顔で頷いた。
「――わかりました。では、この二人が順番に相手をしましょう。それでいいですね?」
「いえ、違います。お二人同時に来てください」
二人の兵士は顔を見合わせ、リベルを見て、そしてスキュアルドの真剣な目線を確認した。最後に再び互いを見つめ、頷く――この顔は、舐めているわけじゃない。
「わかりました。では模擬戦を始めます。二人は模造槍に取り替えてください」
二人は実戦用の三叉槍を壁に立てかけ、差し出された模造槍を装備した。
三人の模擬戦が始まった。




