第三章 第百十三話 〜宿のグレード〜
トントントン――
メイドさんに案内されて、僕は一番奥の部屋に通された。
「リベル様のお部屋はこちらになります――あ、それと、この突き当たりの廊下の窓には結界法術が張られています。外からはびくともしませんが、内側からは脱出できるようになっております」
「そうなんですね……(何そのワクワクする造り)」
「リベル様、このカードキーをどうぞ」
「え? くるっと回す鍵じゃないんですか?」
「そんなものがあったら魔法使いがいくらでも悪用しますので。因みにこのカードキーもすでにリベル様の情報が入っております」
「……え!? いつの間に……」
「先ほどギルドカードを提示していただいた時です。秘匿すべき完全な個人情報などは私どもにも一切分かりませんが、必要な部分は即座に転送されております。
例えば誰の口座にいくら入っているということは分かりません。しかし、リベル様という方がいつどこに泊まったということは分かります。これがギルドカードのすごいところです。
ただし、ギルドカード内に誰がいつどこに泊まったということは記録されません。さすがにそれをしてしまうと誰かが浮気した時とかに困りますからね」
「僕、浮気しません――というか、恋愛したことありません……」
「いえ、例えばの話です。というか、そこまで話さなくても良かったのですけど……」
それを聞いて恥ずかしくなった僕はとっととカードキーをかざした。
ガション!
「……ええ!? なに今の音!?」
普通「ガチャ!」って言うものじゃないの?
何か上から下から横からすごい音がしたような――
「はい。結界法術の一種で上下左右の密閉式の鍵が開きます。例えば寝ている時に毒の霧が流されたらどうしますか? 先ほどこの宿の女将が言っていたのはそういうことです。
さらに言えばリベル様がいらっしゃった際、女将はやる気がないように見えませんでしたか? それはその時点で入ってきた客を見極めるためです。おそらく女将はリベル様が只者ではないことを最初から見抜いていました。
そもそもこんなに若い方が堂々と一人で宿屋兼酒場に来ません。しかし、慣れていないのは伝わってきたので一体何なんだこの方は、となっていたのでしょう」
僕は思わずゴクリと唾を呑んだ。一介の宿屋はここまでできるのか――
「……とまあ、あまりにリベル様の食いつきがいいので思わず長く話してしまいました。申し訳ございません。ではお部屋にお入りください。カードキーを挿入する場所は出てすぐ右手にあります」
窓には夕日がわずかに漏れている。僕は彼女に言われた通りの場所にセットした。すると部屋の明かりが点いた。
室内は広めで大きなベッドが二つ備え付けられている。テーブルと椅子もあり、ソファすらある。シャワールームも広い――いや、広すぎない?
「シャワールーム広いですね」
「はい、体型も含めて様々なお客様にご利用いただくためにそうなっております。例えばラミア種のような方でも使いやすいように便器はフラットで穴が開いている形です。そこに二本の支柱があるので、場合に応じて手をかけられるような造りになっております」
「ラミア種とか会ったことないなあ」
「私もお会いしたことは二、三度ほどしかありません。むしろそこに近いテンペスタ・ラクスの街では多くいらっしゃるのかもしれません」
「なるほど……」
「因みにバスルームの扉を閉めたあとに『全洗浄』のボタンを押すと部屋全体に薬液と洗浄魔術がかかり、最終的には水で洗い流して浴槽と便器の排水に流れ込みます。急ぐのであれば全体を温めて乾燥もしてくれます」
「……すごすぎないですか?」
「冒険者ギルドのCランクはリベル様が思っているよりもすごいことなんです。当宿ではこれくらいですが、先ほど申し上げた街であればさらに豪華でしょうね。なにせ『英雄』の称号がついておりますので」
「……えええ!? 『英雄』ってそういう意味!? 町を救ったとかじゃなく!?」
「ですから、町を救ったのであればなおさらです。おそらく一人や二人ではなく大勢、文字通り町を救われたのではないですか? そうでなければわざわざ『英雄』なんて書かれません。責任が伴いますから」
「そ、そうなんですか……ありがとうございます」
『コンフォート』があるから特にシャワーなどもしない気でいたけれど、なぜかどっと疲れたので身を清めてから夕飯を食べに行くことにした。




