第三章 第百十二話 〜手前の町の宿〜
「うーん、もしかして僕の移動のペースは速いのか……?」
そう思えてきてしまった。理由は色々ある。
まず、普通に歩くだけでは疲れない体になってしまったからだ。日の出から日の入りまで仮に十二時間。食事やら何やらをしても十時間。ちょっと早歩きをしたとしても移動距離は一日に五十キロメートル前後になる。
ただ、ここで問題なのは、たっぷり寝たとして八時間。つまり夜の四時間は『暇』だ。じゃあどうするか。
答えは『ダーク=ヴィジョン』の視野と、『グラスプ』の空中移動を活かして、結局森の中を遊びながら飛び回ってしまうということだ。
夜行性のフクロウやコウモリたちにはびっくりされてしまう。そりゃそうだ。夜中に森の上空に向かってくるくる回りながら飛び出してくる物体なんて誰が見ても全力で警戒する。
しかし改めて感じたけど、ギルド長にもらったこのカバンはすごいなあ。なぜか見た目以上に収納できるし、これだけ飛び回っても中のものが落ちてこない。おそらく何らかの魔法力がかかっていると思われる。ありがとう、ギルド長――
そんなことを考えていると、目的地の手前の町に着いてしまった。四日か五日かかると思っていた道中は、二日と少ししか、かからなかった。
まさかさっきの二つのスキルが『バスター』よりも汎用性がいいとは思わなかった。
「あ、今日はここにしよう」
僕は建物のベッドとお酒の看板を目印に、鐘を鳴らしながら扉を開けた。突き当たりには受付カウンターと右手には階段、左手は様々な客がグラス片手に賑わっていて、胸の大きなお姉さんたちが数名働いていた。
「ごめんください。宿に泊まりたいんです」
「あいよ……あんた、子供じゃないのかい? 親などは?」
宿屋のおばちゃんが頬杖を突きながら語りかける。
「あ、大丈夫です。これ持っているんで」
僕は胸元から白銀に輝くギルドカードを取り出した。その瞬間におばちゃんの姿勢が整った。
「なっ……失礼しました。では一番いい部屋をご用意させていただきますので、少々お待ちください!」
「え、いや、一番安い部屋でいいんですけど……」
するとおばちゃんはあたりをキョロキョロと眺めたあとに僕にボソッと耳打ちをした。
「いえ、Cランク以上の冒険者様だと、いい部屋をご用意するのが慣例です。理由は豪華という意味もそうなんですが、そういう部屋には結界法術がかけられているんです。いくら冒険者でも寝首をかかれてはひとたまりもないですからね。だからあえてそういう仕組みになっています。なお、ギルドカードで払った場合、ちゃんと割引にもなりますんで」
「へえ……知らなかった……」
「一応こんな小さな宿ですが、冒険者ギルドとも提携していますので。さらにこちらとしても、何かあった時に優先的に守ってもらえるシステムです。おそらく、今まで宿を利用したことがなかったのではないですか? 世界各国でも共通のシステムなので、信頼されているのですよ。
ましてCランクなんてなかなかなれるものではありません。さらにお客様は見るからに若い。それでその階級ならばかなりの実力の持ち主だと思います。試しにこちらの装置にカードをかざしてみてください」
僕は言われた通りにカードを丸い台にかざした。
「……! やはり、とてつもない御方でしたね、ベルグハーフェンの英雄、リベル様。今までのご無礼をどうかお許しください」
おばちゃんが深々と頭を下げた。
「い、いえ、そんな……ことまで書いてあるんですか?」
「はい。港町ベルグハーフェンの危機を救った英雄として。冒険者ギルド長スカーレティア様のお墨付きです。本来はここまで教えませんが、私も元々冒険者だったので」
おばちゃんも胸元から金色のギルドカードを取り出した。
「なるほど」
「まずは部屋にご案内しましょう。荷物などもあるでしょうし。その後酒場で夕飯と、明日は朝食もお召し上がりになりますか?」
「お願いします」
「ではお二階へ。係の者が案内いたします」
メイドさんがペコリと頭を下げた。




