第三章 第百十一話 〜道端の不審者〜
僕はベルグハーフェンの町を出て、道なりに東へと歩いていた。もちろん正直言うと『バスター』の突進や『グラスプ』で木から木へと飛び移っていった方がよっぽど速い。ただ、それをするとどうやっても目立ってしまう。『不審者の英雄』とか呼ばれるのは勘弁してもらいたい。
まだ急いではいないので、てくてくとのんびり徒歩で移動しているというわけだ。
セイクルの修行が終わるまでは時間がある――前に聞いた話では、神父様は成人するまで神聖皇国にいたらしい。
ということは十五歳だ。彼女が今十二歳だから、あと三年なのか……
ガバッ!
僕は道のどまんなかにしゃがみこんで両手で頭を抱えた。
(というか何!? なんで僕、キスされたの!? え!? それってつまり、そういうこと!? 一体いつから!? ぐあああああ!?)
行き交う馬車が大きく迂回しながら僕を避ける。そりゃあここまで怪しいやつは他にいない。まるで蠢く文鎮だ。さぞかし邪魔に思われただろう。
(お、おかしい。僕はセイクルや他のみんなのことをミレーナみたいに可愛がってただけなのに。なぜこんなことに……しかもよくよく思い出すとキスされた時――)
チュッ――
(ってなっているけど、正確には)
チュッ(クニュッ)――
(ちょっと舌入れられていたからね……!)
「ぐあああああああ! 恥ずかしいいい!!」
僕の奇声に周囲の通行人は同時にビクッとしていた――
「あああああ! リベル行っちゃったああああ! 寂しいよおおお!」
私は彼の枕を抱きながらゴロゴロしていた。因みに現在床に敷いてある布団も彼のものだ。普段私が寝ている場所に引っ張ってきて、勝手に使っている。
「アンタももう少ししたら神聖皇国に行くでしょうが」
「セイクルうるさい――」
「だってだってえええ……!」
フィオとネネは呆れている。チロはそんな中でも黙々と絵を描いている。
「もっとしっかりチューしておくべきだった――」
「アンタ、いよいよつつみ隠さなくなって来たわね……」
その一言を受けて、私は枕を抱えてボソッと言葉を発した。
「……だって、人はいつ会えなくなるか分からないのよ――」
背中越しだったけど、他三人の空気が変わるのを感じた。
「……それは、そうね……」
「ネネもあの時怖かった――」
「僕も怖かったよ……だから、描いてみた」
チロがスケッチブックを裏返してこちらへ見せると、そこにはリベルの似顔絵があった。
「キャー! すごい! チロ、上手!」
「チロ、アンタこれで食べていけるわよ」
「すごい――」
チロはスケッチブックを切り離すと、それを私に手渡した。
「リベルがいなくなって寂しいのは僕らも一緒だからね……」
「ありがとう、チロ!」
私は似顔絵の彼にキスをした。
ただ、さすがに舌を入れるのは自制した――
「ああ……叫んで少しはスッキリした」
僕は立ち上がり、自分のマントを整えた。
地上への旅に向けて、僕は装備を新調した。
というよりは、みんなが色々プレゼントしてくれた。
焦げ茶色の革長靴は神父様、それと同じ色の大きめの革の肩掛け巾着はギルド長、左肩の深紅の片マントは学長、ロイヤルブルーの服はフィオとチロとネネ、そしてパライバ・ブルーのバンダナはセイクルだ。
因みに出発直前に領主様が僕の姿を見て小さく「なるほど」と言っていたのが気になるが、聞こえなかったことにしよう。
(こっそり教会に自分のお金の一部を、町の復興寄付用に置いてきたのは内緒だ。みんなへの『ヘソクリ』もね)
「さて、先に進もうか。まだまだ先は長い。次の目的地は湖の城塞都市、テンペスタ・ラクスだ」




