第二章 第百十話 〜港町とまた逢う日まで〜
ギュウウ――
「ちょ、ちょっと。セイクル、服が伸びる――」
「わ、私、リベルがそんなことになってたなんて全然知らなかった……」
彼女の涙で僕の肩が濡れる。
「それは仕方ないよ。悲しくなりすぎるのもどうかなと思って言ってなかったんだからああああ……」
ギュウウウウウ――
サイドから『鯖折り』を仕掛けてくるセイクル。こんなに力強かったっけ……いや、待って、また新しいスキルが誕生しそう……
すると彼女は突然『鯖折り』を解除して、涙ながらに顔を上げた。
「決めた! 私、神聖皇国で修行してくる! そして、それが終わったらリベルの旅について行って一緒にお母さん探すよ! だからそれまで待ってて! 世界で一番の結界法術師になってリベルの分まで守るから!」
両拳を握りしめながらセイクルは息を巻く。
「………………ええええ!!??」
この子は一体何を言っているのか分かっているんだろうか? 今のところ僕自身は『スキル』でなんとか命拾いをし続けている――というより、ひどい苦痛を伴うが、毎度復活していると言った方が適切だ。つまり、ほとんど毎回死んでしまっているようなものだ。
だが、彼女はそんな訳にはいかない。死んでしまったらそれきりだ。そんな危険な目に遭わせたくはない。
「だ、だめ! 僕はいいけど、セイクルは安全な場所にいて!」
するとそのセリフを聴いた彼女の頬はプクーっと膨れ上がった。
「じゃあ! リベルがいないところで私が死んでもいいの!?」
グサッ――
そんなことは考えてなかった……スキュアルドの三叉槍で貫かれたような衝撃が、自分の心に貫通した。独特な形状の刃は痛みが強い。
「う、ううう……」
思わずたじろぎながらうめいてしまう。
(よし! あと一押し!)
なぜか彼女の心の声が聞こえた気がした。『ヒア』の後遺症だろうか……?
「そして近い将来、私の『結界法術』の才能は絶対に役に立つはずよ! そしてリベルには効かないかもしれないけど、他の人に対しては『回復法術』や『補助法術』も使えるんだから!」
「うぐぐ……」
戦力を分散させた方がいいのか、それとも集中させた方がいいのか……そもそもそんなことを考えるのも野暮なのか……僕は目を閉じ腕を組みながらグルグルと考え込んでしまった。
「ね、ダメ……?」
ふと目を開けると上目遣いのセイクルが目に飛び込んできた。かわいい。
「ああ……もう、分かった! じゃあ修行が終わったら一緒に旅をしよう。それまで僕は僕で旅を続けるし。それでいい?」
彼女の顔がパァっと明るくなった。
「やった! やった!! 撤回はなしだよ! これでリベルと一緒にずっといられる! 神聖皇国で合流しようね!」
ギュウウウウウ――
また『鯖折り』を繰り出すセイクル。なんならひたすら僕の脇腹に頭をグリグリしてくる。それと同時に肋骨がミシミシ言っている。
(セイクルと一緒にいられるのは嬉しいけど、なぜか大切な何かが早まった気もする――)
出発の日、僕は港町の門に立ち、海の方向へ振り返った。
「じゃあ、僕は行きます。今までお世話になりました」
そこにはかけがえのない皆の顔が揃っていた。
「「「さみしくなるわね……!」」」
キャサリン、アンジェラ、エリザベス。
「達者でな!」
「また会おうねー!」
「また会おうぜー!」
アルト、エルマ、モカ。
「寂しくなりますね……」
グラマリー学長先生。
「今まで本当にありがとうございました……」
ベネディクト領主様。
「リベル! またね!」
「たまには顔を出してね!」
「枕を見るたびに思い出すから――」
フィオ、チロ、ネネ。
「今度は私たちの子どもにも会いに来てください」
「お前のこと、絶対に忘れないからな!」
ヴォルフレイグ神父様、スカーレティアギルド長。
「じゃあ、約束だよ! リベル! 神聖皇国で会おうね!」
セイクル。
「分かったよ! みんな! じゃあね! 今までありがとう……!」
僕は港町を離れ、踵を返して歩き出した――が。
「リベル! 忘れ物!」
突然の背後からの彼女の声に驚き振り向くと――
チュッ――
いたずらな三角巾に口づけされた。
「浮気したらダメだからね――」
顔を真っ赤にしてひまわりの彼女は走り去った。
そのあとの記憶は覚えていないが道なりに進んでいったようだった――
やがて僕は前を向いた。
地上の旅路はまだ始まったばかりだ。
これからは自分の足で歩いていく。
その先にどんな困難が待ち受けようとも。




