第二章 第百八話 〜冒険者ギルドと世界の成長〜
「こんにちは。ギルド長ここにいますか?」
僕は冒険者ギルドの扉をくぐった。受付のお姉さんがにこやかに挨拶をする。
「こんにちは。リベルさん。ギルド長は上にいるはずですよ」
「ありがとうございます」
僕は階段を上へと進んだ――そして、ふと下の階を見下ろした。思えば長くお世話になったな……
コンコン。
「――はい」
「ギルド長、僕です。リベルです」
「……」
ガチャッ。
「来ると思っていたよ」
ギルド長が扉を開けた。
「来ましたか、リベル」
神父様もそこにいた。
「――来ると思っていた、というのは、昨日までのセイクルとの間に何かあった、ということですか?」
「そうなるな」
「それはどういう――」
「私から話しましょう。ただしリベル、この話は君だけに話します」
「僕だけ――ですか?」
「いや、悪い話ではなく、むしろいい話なんだがね――セイクルに『神聖皇国』からスカウトの案内が来たんだ」
「神聖……皇国……?」
(そういえば前にギルド長からその名前と、詳しい地理を座学で聞いたことがある。神聖法術師が集う国。その国のトップは女皇陛下。特に彼女は神父様と同じような結界法術の優れた使い手だという)
「――確か神聖城を中心に、神殿が回りながら宙に浮かんでいるとか」
「よく知っていますね。私はそこで修行と研究をしていたんです」
「そうだったんですか!?」
「ええ。そこで『結界法術・打』を編み出しました。それまでは結界法術を攻撃に応用するという発想は誰もなかったのですが、私と彼女が史上初めて発明したのです――ガッ!!」
ギルド長がアルカイックスマイル――というよりは怒りに満ちた恐怖の笑顔で、竜の尾を神父様の脛に思いっ切り突き刺した。
「……彼女って誰ですか?」
「い、い、いえ、忘れてください……と、とにかく、そんな神聖法術の盛んな国からセイクルにスカウトが来たんですぅ……!」
急に説明が雑になった。因みに狼人は悶絶していて、竜人はジトーっと彼を見つめている。
すると彼女が口を開いた。
「全く……リベル、お前もデリカシーには気をつけろよ。こんなふうに刺されるぞ」
「ええ。一応気をつけているつもりです――」
また竜人がジトーっと今度は僕を見つめだした。いや、僕には思い当たる節はない。
「……まあ、お前はデリカシーがないというよりは死ぬのに慣れすぎたせいで、感覚神経がマヒして鈍いだけか――」
「ありがとうございます」
「褒めてない! どうせお前、この町を出ることを俺ら以外には言ってないんだろ?」
「あ、そうなんです。ただ、それに関しては言わなくてもいいや、と言うより、いつどうやって言ったもんだかと……」
「まあ、気持ちは分かる。ただ、もう少し前からそれを伝えていたら、セイクルの気もちょっとだけ軽くなったんじゃないか? 今やあいつの結界法術の腕前はヴォルに勝るとも劣らない勢いだ。もちろん、そんな中にこの町から出ていくことは戦力的には損失だ。
だが、この前のカラスマスクのことといい、どうも『強大な敵』が世界全体にも関わっているような気がしててな。そうなると、ここだけの話じゃなく、全体のレベルアップも重要なんじゃないかと思ってな」
「……ギルド長、すごいですね」
びっくりした。彼女がそこまで深く広く考えていたとは。確かにあのカラスマスクが散り際に『レヴ様』と言っていたような気がする。これが冒険者ギルドの長たる所以か。
「何言ってる。世界の中心の鍵を握っているのはリベル、お前だ」
「……ええ!?」
「当たり前だろ。深海から陸地に上がり、並み居る強敵を退治してきたやつなんて、おいそれといると思うか?
そしてこれから先、もっと世界を脅かす存在が多数出てくるんじゃないか……あるいは、気づいていないだけですでに潜伏している可能性だってある」
それを聞いて背筋に冷たいものが走るような気がした。心当たりは……ある。
「まあ、話はずれたが、ちゃんとセイクルにも他の三人にも事情を説明してやれ。その方がいいだろうから」
「分かりました! ギルド長、ありがとうございました!」
僕はまだ悶絶している神父様に手を合わせたあと教会へと向かった。




