第二章 第百七話 〜成長と変化〜
「リベル! そっちに行ったぞ!」
「任せて!」
ザブン!
僕は『スウィム』を起動して対象に高速で迫る。そして――
ザッパーン!
巨大なマグロを『スティング』で仕留めた。
そのまま船の上にドン、と載せる。
「やっぱりリベルがいると大物を仕留めてくれるから助かるよ」
「ちゃんと締めておいたから、市場の人たちも喜ぶよ――」
僕は十歳になっていた。
なぜもっと早く世界に冒険に行かなかったかって? それは『勉強』していたからだ。
よくよく考えると、今しか子どもの頃はないと思ったことと、そもそも社会や世間について全然知らない、ということだ。
学校も一週間に座学が二日、実技が二日、だけだと、実力に応じてどんどん進めるシステムと言っても、詰め込むには時間が足りなかったからだ。だからニ〜三年、特に勉強という座学に勤しんだ。前世の知識は山ほどあったけどね。
因みに実技の方はというと、料理が得意になった。前世で『料理は科学だ』と言っていた意味も分かってきた。無意味にフライパンを振る気持ちも今は分かる。ケーキやクッキーなどのお菓子も作れるようになった。ただ、僕目当てで料理の授業を選択する人が増えた気がする。しかも女の子ばかり。まあ、他の子の料理も美味しいからいいんだけど。
ただ、一番三角巾が似合いそうな誰かがその授業に出禁なので、終わるたびに廊下に突入してくる。制止してくる長耳と一緒に。ちゃんといつも四人分は作ってあるんだけど。
その大きなリボンをつけた長耳の子は、格闘技に目覚めたらしい。たまに見かけるが相当強い。脚力を活かした攻めは相手を圧倒する。よくペアを組んで『結界法術』を組み込んだ模擬戦をしているか、ハイレベルすぎて周りがついていっていない。何でもいいが、怪我にだけは注意だ。
美術や芸術が得意だった子は、もはやプロ顔負けのレベルだ。写実的なものから、アバンギャルドな作風まで、なんでもござれだ。僕がプレゼントした画材セットも相当使い込んでいる。
ただ、夜中に作品たちが動き出すという現象が起きているらしい。たまにその形跡があるという。しかし、ちゃんと朝には元の位置に戻っているというのだ。おそらく創造主の性格だろう。
歌と睡眠が得意な子もその才能をいかんなく発揮している。聴き惚れてしまう歌声もそうだが、喧嘩の仲裁には彼女の歌声が一番らしい。麻酔銃より効くんじゃないか? 悪用厳禁だが、本人にその気は一切ない。
僕は身長も少し伸びて、今ではセイクルよりもちょっと高い。ただ、そんなに変化はないと思うんだけど、毎日身長を背中合わせで比べてくるのは意味があるのか……?
そしてどうやらその彼女は、『結界法術』の申し子だったらしい。この前は『結界法術・三重壁』を成功させて神父様が驚いていた。この歳で『結界法術・壁』ができるだけでもすごいのに、『三重』は意味が分からない、って。
そうしたら彼女は喜ぶどころか、とても悔しがっていた。
「最初からこの力があれば、もっと大勢の人を救えたのに……」
神父様は震える彼女の肩をポンと叩くと、首を横に振った。それを見た彼女は彼に抱きついて号泣し始めた――
今、この家には僕ら四人しか住んでいない。神父様はギルド長と一年前に結婚して、基本的には彼女の家で暮らしているからだ。もちろん、地下の彼の部屋はまだ残っているし、たまに用事も兼ねて様子を見にくることもあるし、なんなら二人一緒に僕のご飯を食べに来ることもある。教会での相談事は神父様が冒険者ギルドで主に承っている形だ。
スタンピードとその前の鉱山での惨劇で空き家もできて、そちらに分けて住むことも考えたが、僕らはここに残ることを決めた。
だいいち、もうじき僕はここを出てしまうから。
いつ出発しようか悩んでいたある日、神父様が教会に来た。そしてセイクル一人を呼び出して、ギルド長も一緒にそちらの家でご飯を食べて、一晩泊まろうとのことだった。
僕らとセイクルはみんなキョトンとして、珍しいこともあるもんだと思いつつ、彼女を見送った。
そして次の日の昼前に彼女は帰ってきた。しかし、様子がおかしい。目には泣いたような跡があり、腫れぼったくなっていた。
「どうしたの!?」
僕も含めてみんなが心配するが――
「何でもない」
と言うだけで、僕の方を一瞥すると、そのまま二階に行ってしまった。フィオが「ご飯は?」と言っても「いらない」とカーテンを閉めて布団をかぶってしまっているようだった。
「どうしたんだろう?」
「あのセイクルがご飯いらないなんて」
「いや、まあ、それもそうだけどさ……僕、神父様のところに行って来ようかな?」
「本当? じゃあ私たちの代わりにお願い」
「分かった」
三人に頼まれた僕は冒険者ギルドへと向かった。




