第二章 第百二話 〜港町のおかしな様子〜
「そんなことになっていたんだ……」
七日間の眠りから目を覚ました僕は愕然とした。あの時はがむしゃらに戦っていただけだったから。
「そう。私もチロとネネと走って大変だったの。もちろん、一番大変だったのはリベルね。次に、セイクル」
「僕たちは怯えてただけ」
「怖かった――」
「いや、みんなよく生きていたと思うよ。僕も全速力で走っていて気が気じゃなかったから」
心の底からそう思う。どれだけあの時間が長かったことか。
今日は本来登校日だが、まだそんなこと言っている場合ではなかった。復興工事もまだまだな箇所もあれば、そもそも町民の心の整理は落ち着いていなかった。亡くなった子どももいれば、亡くなった親もいる。
因みに今日、神父様はいないらしい。というか、ほぼずっといない。冒険者ギルドに泊まり込みで、ギルド長と一緒に事後処理に追われているらしい。たまに食料を届けに、そして様子を見に来るくらいとのことだ。僕もしばらくしたら顔を出しに行こう。
「それでみんなに、僕が何とどうやって戦っていたのかを言おうと思うんだけど……セイクルはどうしたの?」
僕は顔を真っ赤にしているオレンジの三角巾を見た。
「え!? あ、いや、その……なんでもない……」
明らかに様子がおかしい。なんというか……くねくねしている。
「あの子、今朝リベルが目を覚ましてからますますおかしいわよね。もともとおかしかったけど」
「なんか変なもの食べたのかな?」
「セイクルの料理よりも――?」
僕とフィオ、チロ、ネネの会話もほぼ耳に入っていない。新しい病気かもしれないが、まあ命に別条はないだろう。僕は他三人に向けて事のあらましを説明した――はずだった。
「――そんなことになっていたの!? リベル、大変だったね……!」
「「「「……!」」」」
突然正気になったのか、セイクルがズズイッと話に入ってきた。
「う、うん。でも、そっちも大変だったんでしょ? 本当にお互いよく生きていたよ……」
「そうね。『結界法術・盾』が発動しなかったら、たぶんダメだったと思う……」
「どうしてできるようになったの?」
「私は誰かを守る、何かを守る、って強く念じたから、できたんだと思うんだ」
「それはその時いた、フィオ、チロ、ネネ、ってこと?」
「そう。それと……」
「それと?」
「――リベル」
「……僕!? え? その時、僕関係なくない?」
「いや、リベルの顔と、プレゼントされた『ひまわりのブレスレット』が頭に思い浮かんだから……って、キャー!」
セイクルは顔を真っ赤にして両手を覆った。まあ、ショックが大きかったのか、言動がとてもおかしい。もう、そっとしておこう――
「皆さんこんにちは! ギルド長と神父様はいますか?」
僕は冒険者ギルドの扉をくぐった。すると職員たちと冒険者たちが一斉にこちらを見た。
「リベル!」
「リベルさん!」
「英雄リベル!」
なんだか尾ヒレが付いているような気もする。
「リベルさん! お疲れ様です! もう体の具合はいいんですか?」
受付のお姉さんが心配しながら語りかけてきた。
「あ、ありがとうございます。僕の方は七日間も寝ていたので元気です。ご心配をおかけしました」
軽く笑いかけると彼女は胸をなで下ろすように苦笑した。
「よかったです! ギルド長も神父様も私もみんな、心配していましたから……」
「あ、そうだ。お二人はどこにいますか?」
「はい。上のギルド長の部屋にいるはずですよ」
「分かりました。ありがとうございます!」
僕は階段を上り、二人のもとへと廊下に向かおうとする。すると、何やらお姉さんの独り言が聞こえてきた。
(まだ若すぎるか? もうちょっと待ったほうがいいか? いや、今のうちに囲い込んでおけばワンチャンいけるのではないか……?)
ワンチャンって何のことだろう……?




