業務ログ 掃除屋について
対象06までを記録・消去。
少し、分からなくなってきた。
どうして彼らが消去対象だったのか。
どうして私は、その記録を残しているのか。
一度、最初に戻る。
業務説明を受けた時の音声ログがある。
内容は覚えているけど、文字に起こして見直す。
Aは私。
これは私のあだ名でもある。
「それ」
A「……」
「まだ痛むの?」
A「うまく、いってない……いって、ません。
でも、話せます」
「そう? あ、敬語はいらないよ」
A「……」
「じゃあ、どこから話そうかな」
A「……帰る方法から」
「まだ来たばかりじゃないか」
A「ちがう、あそこじゃない。
元々、いたところ……帰りたい」
「元の世界に帰りたいってことだね」
A「そう……帰して」
「ボクにはできないよ」
A「連れてこれるのに、帰せないの?」
「そうだね、おかしな話だけど。
ボクは連れてくることもできない」
A「……連れてこられたら、もう帰れないの?」
「この話はあとにしようか」
A「はっきりさせたい。帰れるなら、帰りたい」
A「……帰して」
「まず本題を伝えなきゃいけない。
その後で、君の聞きたいことに答える時間を作るよ。
知っていることは答える。そこは信じてほしいな」
A「……分かった」
「じゃあ本題。
さっきも言ったけど、君は掃除屋に任命されました」
A「……言われたのは、覚えてるけど、よく思い出せない」
「状況が状況だったからね」
A「……」
「いいよ、もう一度説明する」
「掃除屋の業務内容は、二つ。
物語になれなかった世界の主人公を消去すること。
そして、”私が消しました”というメモを記すこと」
A「……」
「……」
A「……おわり?」
「おわり」
A「色々……聞いてもいい?」
「いいよ。
あ、掃除屋についてね。帰る話はあとだよ」
A「……物語になれない、ってどういうこと?」
「その言葉の通りにしか、ボクは知らない」
A「……主人公ってなに?」
「ボクや君が元々いた場所、
仮に現実世界としよう。
現実からこっちの世界に呼ばれた人間」
A「私も、主人公なの?」
「君はどうだろうね、違うんじゃないかな」
A「どう違うの?」
「こっちには色んな世界があるんだけど、
そのどれかに必要とされたのが主人公」
A「……勝手に連れてきて、要らなくなったら消すの?」
「なんか怖いこと想像してない?
命を奪う仕事じゃないよ。
掃除屋が担当するのは、もう死んでる主人公だから」
A「死んでる人を、消す」
「その手」
A「これ……あの子を、触った時に……」
「その子はどうなったの?」
A「ちゃんと覚えてない……けど、もういなかった」
「同じ方法でいいと思う」
A「これ、壊すためのスキルじゃない……」
「魂を破壊できる能力が掃除屋には必要。
逆に言えば、
その能力を身につけたから、君が任命された」
A「壊すためのじゃ……」
「違う方法を用意できるなら、なんでもいいよ」
A「……」
「続けるね。
対象となる主人公は、魂としてその世界に残ってる。
そこに行って、消す」
A「……」
「聞いてる?」
A「……聞いてる」
「泣いてる?」
A「痛い……」
「ちょっと休憩しようか」
ー
A「断っても、いいの?」
「いいよ」
A「いいんだ」
「でも、引き受けることをお勧めするよ」
A「私のメリット、ない」
「やらないデメリットはあるよ。
どこにも行けない」
A「それは……困るね」
「ここには来てもいいよ。
でもお茶くらいしか出せない。
君は食べたりする必要があるよね」
A「そこは、どうにかなりそう、だけど……」
「掃除屋なら、色んな世界に行けるからね」
A「帰る方法も、見つかるかも?」
「指定の場所に直行、終わったら即直帰。
それが原則。
ただ、ほんの少し状況を見てくるくらいなら」
A「長居すると、怒られる?」
「分からない。避けるべき、とされてる」
A「その世界の、神とは会える?」
「だから、避けるべきとされてる」
A「あ、掃除屋との接触を、ってこと」
「そう」
A「……」
「ボクは教育係になっちゃったから例外。
あ、お茶いる?」
A「いらない」
「そう」
ー
「——という感じなんだよ。人使いが荒いよね。
神使いかな? ふふ」
A「質問」
「あ、うん」
A「”私が消しました” というメモを記すこと。
これについて」
「ああ、それは ”おまじない” とされてる」
A「詳しく」
「業務終了のサインみたいなものだよ」
A「詳しく」
「ノートでも、スマホでも、なんでもいい。
自分のログに声を残すだけでもいい。
魂を破壊した後に、自分がやりました、
という内容をメモする」
A「なんのために?」
「物語の打ち切り宣言、と考えてもいい。
この物語は終わりました、でも成立すると思う」
A「ふわふわしてる」
「そうだね」
A「物語の中身は? 知らなくてもいいの?」
「知らなくていいよ。知る方法もないし」
A「……」
「だから ”おまじない” 」
A「……そのおまじないは、どこかに提出するの?」
「しない。掃除屋が持っていればいい」
A「そう」
「うん」
A「隠し事はしてないよね?」
「聞かれたことには答えてるよ。
ボクの知る範囲だけどね」
A「他の、神は、もっと知ってるの?」
「他の神のことを、ボクがあまり分かっていない。
だから断言はできないけど、
みんな同じような認識だと思うよ」
A「……みんな、そんな適当なの?」
「適当というより、
共有されてる情報の範囲で答えてる」
A「そう」
「うん」
ー
A「……ねえ」
「うん」
A「掃除屋、やります」
「うん」
A「……」
「——あ!
うん、ありがとう、お願いするよ!」
A「で、質問」
「うん……」
ー
A「再開するね。
私が行く世界って、どういう世界?」
「その世界の……設計次第かな。
どうなっているのかは、
実際に行ってみないと、分からない」
A「事前には分からないんだ」
「そうだね、ボクが貰ってるのは座標だけ」
A「掃除屋でも死ぬの?」
「君の場合は、ほとんど普通の人間だからね。
可能な限り、備えて行った方がいい」
A「そう」
ー
A「勇者ってなに?」
「いや、ちょっと集中が……」
A「勇者って言った」
「……すまない、使うつもりはなかったんだ」
A「勇者ってなに?」
「……蔑称だよ」
A「べっしょう」
「物語になれなかった主人公は、
ボクらの間で『勇者』と呼ばれてる。
揶揄……見下した表現なんだ。
使うべきではなかったよ」
A「つまり、私の対象は『勇者』」
「そうだね」
A「私たちの間では、それでいいんじゃない?
短く済む」
「君が抵抗を感じないなら、それでもいいよ」
A「本人には言わないよ」
「もう死んでるからね」
A「そうね」
ー
A「——大丈夫? 休憩する?」
「……うん」
A「あ、おかわりほしい」
「……持ってくるね」
A「……」
A「……」
A「なるほどね」
ログは十六時間ほどあった。
飛ばしながら見直した。
見落としがあるというより、
もともと分かっていないことが多い。
理解するためには、
もっとサンプルを集めるしかない。
ログ内の会話は全部覚えてる。
ただこの時、何を考えながら聞いていたのか。
それだけは覚えていない。




