記録06 斥候のタク①
え、俺の人生について?
いいっすよ。適当に喋ればいいんですよね。
前世は、まあ、テレビのADです。
分かりますよね、あの感じ。寝れない、帰れない、風呂は三日に一回。
『おいタク! 弁当の箸足りてねえぞ! 撮影部が飯食えねえだろうが!』
『タクさん、ロケバスの入り時間、あと五分巻けます?』
……あはは。まあ、ああなったら走るしかないんですよ。
でも、俺、あの仕事嫌いじゃなかったっすね。
現場を回して、段取り組んで、予想外のトラブルを無理やりねじ伏せる。
全部がバシッとハマった時の、あの変なハイテンション。
最後はその社用車で寝落ちして、電柱に突っ込んで終わり。
まあ、当時はそれくらい余裕がなかったってことなんでしょうね。
気づいたら、知らない草原に立ってました。
普通なら「異世界だ! 魔法だ!」って喜ぶんでしょうけど。
俺が最初に思ったのは「うわ、これ次の現場どこだよ。地図ねえのかよ」ってことでした。
結局、二日くらい野宿して、たまたま通りかかった軍隊の輜重隊、飯運びの部隊ですね。そこの連中に、必死に売り込んだんです。体力はあるし、雑用なら何でもやりますって。
そしたら、運良く拾ってもらえて。
気づいたら、いつの間にか斥候になってました。
と言っても、俺の斥候は地味ですよ。
でもね、これが意外と忙しくて面白いんです。
「村長さん、お願いっす! 今度一万人の軍勢がここ通るんすけど、井戸の水だけは確保させてください! あと、この橋、補強してくれたら軍から補助金出させますから!」
そうやって頭下げて回る。AD時代のロケ交渉と一緒です。
交渉が済んだら、すぐ次の現場へ移動。
渡河地点を確認したり、地図を手描きしたり、夜営地を決めたり。
一万人が一箇所に泊まるとなると、一番大事なのは「風向き」なんすよ。
まず風上に、炊き出し用のケータリング部隊を配置。これ基本っす。
鍋とかの基本道具、調味料に保存のきく豆や塩肉は、最初から馬車に積み込んであるんで、あとは現地で水とか野菜をどう確保するかが勝負。
村のばあちゃんたちに「余ってる野菜、言い値で買うよ!」って交渉して回るんです。
本隊が着く頃には、ちょうど温かいスープが煮えてるように仕込んでおく。
そんで、一番遠い風下にデカい溝を掘るんです。トイレっす。
これ、絶対っす。段取り無視してその辺で野糞されたら、一晩で疫病が出て、現場がバラし……全滅になりますから。
若い奴らには「なんで穴掘らなきゃいけねえんだ」って文句言われますけど、「温かい飯食ってスッキリ寝たいだろ?」って説得して。
あと、大事なのは補給路に残る連中への配慮っすね。
本隊が通り過ぎた後の道を守るやつらって、一番孤独で飯も疎かになりがちなんですよ。
だから俺、部下には「予備の乾燥野菜だけじゃなくて、少し多めに融通した塩肉と、現地で一番いい酒をあっちの詰所に置いてこい」ってスケジュール管理も徹底させてました。
俺が引いたルートを、一万人の兵隊が鼻歌まじりに進んでいくのを見た時は、正直、生放送やり切った時より痺れましたよ。
俺の担当したルートは、不衛生が原因で脱落するやつを最小限に食い止められたんです。
何のドラマも起きない「ただの移動」を、俺が何百件と積み上げてきたんです。
俺の仕事はあくまで戦地手前の中継地点までなんで、最前線に向かう連中が、空になった鍋を積んで引き返す俺たちを見て「行かないでくれタク!」って泣きついてくるのは、ちょっと困りましたけどね。
「いや、俺、こっから先は現場(戦場)の担当じゃないんで。お疲れ様っす!」って。
……あはは。あの時の連中の、この世の終わりみたいな顔。
今思い出しても、ちょっと笑っちゃいますね。
だから、俺は満足して死んだはずなんですよ。
畳の上で、孫に囲まれてね。
ー
…………おわり?
おわりっす。
そっか。
あれ、何か間違えちゃいました?
いえ。
というよりむしろ、
何か間違いはなかったの?
失敗とか、破綻とか。
いやー、細々したミスはありましたよ、そりゃ。
報連相のミスとか、数字の間違いとか、単純な見落としとか。
けど、そのたび潰してきたんで。
破綻なんてさせたことはないですし。
俺、年取ってからは裏方チーム全体の教育もがんばったんで。
全体をかなり良い感じに仕上げて退職したと思いますよ?
あと関係ないっすけど、畳作ったんですよ。俺の家、なんちゃって和室があるんです。ちょっと凄くないっすか?
なるほど。
†これは困ったね。
どういうことすか?
……タクさん。
しいて言えばで構いません。
これは失敗だったなと感じた話、
あったりする?
……あー、あるにはありますね。
それお話しすればいい感じですかね?
それお願いします。




