表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
19/30

記録05 ゆるキャラ殺人事件③



「犯人が分かりました」





迷探偵さんの推理が始まった。





人、集めて。

指差して。

得意げに。





内容は長い。





第1事件と第2事件を雑につなぐ。

第3事件を勢いで押し切る。

アリバイもガバガバ。





あぁ……いつものや。





期待したオレがアホやった。





で、最後に指差した。





「……つまり、犯人は——ゆるサン、君だ」





………………やりおった。





最悪や。





「あー……その時間、そいつはオレとおった」





探偵役が犯行時刻やと推理した時間。

監視も兼ねて、オレが調査に誘ったタイミングにもろ被りや。

屋根出て、雨どいの傷とか、足跡みたいな汚れを確認しとった。





プレイヤーが見たアリバイは、申告せなあかん。

黙っとったら、推理パート破綻扱いになる。





破綻したら、クマになって暴走する。





全員、狩られる。





言うしかなかった。





探偵役、終了。




NPCどもはざわついて、ゆるサンは困った顔して、

探偵役は青ざめて、彼女役のNPCになだめられとった。




下手うった。




これで、監視する理由が消えた。




解散になる。

それぞれ部屋に戻る。




嵐は強なっとる。廊下の窓が鳴る。




オレも自室に戻った。




鍵、閉める。




……なんか、怖い。



今さらや。

今さらやのに、急にそう思った。



メニュー開く。



反応せえへん。



もう一回。



開かん。



中断。終了。設定。

何押してもあかん。



喉が乾く。



ゴーグルに手をかける。



外れへん。



強く引く。



外れへん。



顎紐なんか無いはずやのに、外れへん。



ていうか、ゴーグルの感触が、ない。



「……おい」



誰に言うたんか分からん。



息が荒なる。



とりあえず、ゆるサンや。



あいつの部屋に行く。

ほっとけん。自由にさせといたらあかん。



廊下に出る。



誰もおらん。



ドア、開いとる。



中、空や。



ベッドも、浴室も、カーテンの裏も、誰もおらん。



その時。



悲鳴。



近い。



走る。



ホールや。



探偵役と、その彼女役。



2人まとめて、やられとった。



壁も床も柱も、どこかしこも、赤い。



残り、4人。



オレ。

ゆるサン。

他2。



調べな。



足跡、爪痕、仕掛けの(アラ)



なんか出るはずや。

もういい加減、なんか出なおかしい。



そう思った。



……でも、脚が動かん。



無理や。



現場に近づきたない。



見たない。



遠目やけど、

なんか、いつもよりグロい、気がする。



しかも、なんか、

するはずのない、匂いが——



オレ、自室に戻った。


鍵、閉める。

テキトーな家具を引きずってドアの前に置く。

椅子に座って、ドアを見つめる。


情けない。

知るか。


こういう終わり方は、知っとる。

自室に追い込まれて、籠城して、

ドアごと破られて、最後は……


何回も見た。

負け演出の一つや。


せやのに。


今回は違う。


ただの負けやない。

そういう感じが、ずっとしとる。


だったら動かな!


分かっとる。

分かっとるのに。

動かれへん。


外で、誰かの悲鳴。


次に、大きい音。

何か倒れた音。

折れるような音。


地響き。

あいつが走る音。


もう正体を隠しとらん。

クマ全開、の重い足音。


廊下を曲がって。


近づく。


近づく。


止まる。


ドアの向こう。


おる。


息、止める。


ノブが、回る。


一度、止まる。


次の瞬間、

バキン、と金具が鳴った。


身体が跳ねる。


これも知っとる演出や。

何度も聞いた音や。

なのに、なんでこんなに……


ドアが、音を立ててゆっくり開く。

家具、置いた意味ない。


隙間ができる。

暗い廊下。

雨音だけが遠い。


そこから、


血に濡れた爪が見えた。

もこもこの毛並みに、赤が筋になってついとる。


「う、ぉ」


声にならん。


次の瞬間、


ドアがぶち破られる。

家具が粉々なって吹き飛ぶ。


驚いて、椅子ごとのけ反る。

脚が床を離れ、宙を泳ぐ。

視界が傾く。


ドア。


壁。


天井。


来る。


ちゃう。


これ、いつものちゃう。


あかん。


あかんあかんあかん。


ポーズ。


ポーズポーズポーズ——







そこで止めた。

ここまでや。

……ここで、ずっと止めとる。




  なるほど。


  対象世界は、ほぼ完成していたみたいだね。

  ゆるサンの逸脱もある。

  でも決め手は、あなたの停止だと思う。




……は?




  終わるはずの場面を、終わらせなかった。

  だから、終わらない形で残った。




ちょ、ちょい待てや。

オレのせい言うてる?




  半分くらい。




半分!?




  もう半分は、向こう。

  いい勝負だったんじゃない?




どこがやねん……




  解除してみる?




「嫌や」


即答やった。


……あれ?




  そう。

  では、別の方に聞こう。




「別? ていうか」


……声、出た。


これまでも普通に話してた、と思ってた。

けど違う。


喉が震える感覚が戻った。

耳に、自分の声が返ってきた。


そんで、

暗かったはずの世界に、薄く輪郭が浮かぶ。


壁、床、天井。

ドアの破片。

バラバラになった家具。

音も動きもない世界。


視界の左側。

窓際に、オレがおる。

椅子ごとひっくり返る途中で止まっとる。

ビビり散らかした、マヌケな顔。

アバターやない、オレの身体そのまんまや。


そんで、そこから2メートルもない、右側。

黒い、でっかいのが、宙に固定されとる。

飛びかかりながら、右腕を伸ばす……ゆるサン。


吹っ飛んだドアを追い越す勢いで一直線。

最短距離の殺意。


「うわ」


思わず後ずさろうとして、動かれへんことを思い出す。


「うわうわうわ、なんやこれ、近い近い怖い」




  見えるようにしたよ。




「見えるようにしたよ、やないねん!

 なんでそんな平然と出来んねん!?

 お、オレ、今どういう状態なん!?

 なんで、自分を外から見とんねん!?」


パニックや。

こいつ、いちいち説明がない!

分かるように言うてくれ!


死んどらん。

オレまだ死んどらんはずや。

なら、この状況はなんや?

説明がほしい、死んでないって言ってほしい。

そんで、


「オレを助けてくれ!!」


こいつ。

この女。

こいつもおる、見える。

こいつだけ動いとる。


声はずっと聞いとったが、こんな格好やったんか。

オレのことはガン無視して、止まったままのゆるサンを見とる。


ゆるサン。

もうこんな距離まで詰めてきとったんか。

血に染まった爪を剥き出しにして、オレに飛びかかっとる。

もう次の瞬間くらいには、オレに届きそうや。

ポーズ、ギリギリやってんな。


口元は笑ってるようにも見える。

目は……なんや、涙?

泣きながら殺しに来るんか、お前は。

にこにこ笑顔から溢れた涙が、あいつの勢いに置いていかれて、後ろに細く引き連れられとる。


女が、ゆるサンの前まで行く。

顔をまじまじ見る。


「ちょ、近ない?」


無視。


「なんか言えや!」


女の手が、ゆるサンの胸のあたりへ沈む。

毛並みを抜けて、着ぐるみを抜けて、水に手を入れるみたいに、するっと入る。


「……は?」


手首まで入る。

肘まで入る。


「え、何してんの」


少しだけ中を探るみたいに指を動かして、




  いた。




「何が!?」


ゆっくり、手を引き抜く。

その手の中に、白いものがあった。


丸い。


小さい。


やわらかそうで、でも輪郭があいまいで、湯気みたいにふるえとる。


「……え」


それが、ぴくっと動いた。


「な、なにそれ」




  彼の。




「彼の?」


誰のなんやねん!

説明を!せい!!


女の手の中で、白い塊がまた震える。


それを、

水をすくうみたいに両手で包む。

顔の高さまでそっと持ち上げて、ゆっくり手を離す。

当たり前みたいに、その場に浮く。


目線を合わせて、じっと見とる。




  聞こえますか?

  今から、少し喋れるようにしますね。




「いや待て待て待て、それ、ゆるサンなん?」




  たぶん。




「たぶんで進めるなや!」


気にする様子もない。

女の関心は完全にソレに移っとるようやった。



「この声が聞こえていますか?」



女が、今度は声で話しかける。


白い塊が、ぴくっとした。


「は、はい……」




  この声は聞こえますか?




「きこえます、きこえてました、ずっと」




  よかった。

  では、お名前を教えてください。




「……ぼくは、ゆるサンです」




  ありがとう。

  私は掃除屋。

  これから少し、お話を聞かせてください。




女がオレの方を見て言う。




  あなたは喋らなくても大丈夫。


  見て、聞いて、観測だけしてて。

  それは記録になるから。




「いや、ちょ、待っ——」




  では、ゆるサンさん。

  あなたの方から聞かせて。

  何をしようとして、こうなったの?




白いそれが、小さく息を吸った。






  対象05の記録を開始。

  対象05−2を音声ログから除外。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ