記録05 ゆるキャラ殺人事件②
「……つまり、犯人は——ゆるサン、お前や」
指差して、そう言うた。
部屋は静かやった。
全員の視線が、あいつに集まっとった。
ゆるサンは、少しだけ肩を落として、
「……そうだよ」
と言うた。
それから、ぽつぽつ喋り出す。
「ぼくは、あの子が好きだったんだ」
「でも、あの子は——」
内容は単純。
誰が誰を傷つけて、
それがどうして殺意になったか。
いつものや。
動機として成立しとる。
トリックも破綻してへん。
勝ちや。
スコアが出る。
視界いっぱいに、数字。
トリック解明率。
動機回収率。
生存者数。
経過時間。
その中に、勝敗も出とる。
500勝。500敗。
……ちょうど五分や。
「次のシナリオに進みますか?」
選択肢が出る。
YES / NO
ここまでは、いつも通りや。
——やのに。
スコアの向こうで、動くもんがあった。
ゆるサンや。
さっきまでうな垂れとったはずの身体が、
ゆっくり、起き上がる。
表示の裏で、こっちを見る。
笑っとる。
そのまま、口が動く。
「できれば、勝ち越したかったなあ」
聞こえる。
はっきり。
「……次で、決めようか?」
——は?
今の、なんや?
選択肢は、まだ出とる。
操作はしてない。
でも、
画面が、暗くなる。
勝手に。
ロードが始まる。
「ちょ、待て——」
入力、通らん。
そのまま、
切り替わる。
——1001。
バカでかテロップ。
目を開ける。
空気が違う。
風の音。
雨。
窓から見えるのは、海。
孤島。
ホテル。
最悪のステージや。
ここ、あいつの勝率が一番高い。
「……クソが」
周りを見る。
人がいる。
同じ顔ぶれ。
でも、関係が違う。
役割も違う。
リセットされとる。
いつも通りや。
ゆるサンを見る。
そこにおる。
今回の役を演じとる。
普通の登場人物として、振る舞っとる。
……話しかける。
「おい」
反応は、ない。
というか、
キャラのまま返してくる。
ランダム生成された、
シナリオに沿った受け答え。
メタな話、通らん。
弾かれる。
やのに。
視線を感じる。
見る。
目が合う。
にこにこしとる。
……でも、
……ちゃう。
笑い方が、違う。
——ええわ。
切り替える。
やることは同じや。
これまで通り、
最適行動を取る。
NPCの動き。
会話。
移動。
イベントの傾向。
全部、把握しとる。
進める。
順当に。
第1犠牲者が出る。
背後からの刺殺。
想定内。普通や。
NPCは無視。
オレは動く。
現場。
痕跡。
……ない。
おかしい。
この状況、何かは残るはずや。
……いや。
パターンとしてはある。
第2の殺人以降で出るやつや。
なら、まだええ。
切り替える。
ゆるサンを見る。
監視する。
同時に調査。
違和感はある。
でも、
証拠にはならん。
そのまま進む。
——悲鳴。
第2。
早い。
調べる。
……出えへん。
何も、全く。
……変やな。
こんなこと、ない。
無理やり、理由つける。
「外調べたい、手ぇ貸し」
ゆるサンを連れて調査する。
2人になる。
他に手がない。
まだ、大丈夫。
その時。
また悲鳴。
第3。
タイミングが、狂っとる。
……あかん。
こっからは、ルールが変わる。
3人出たら、
プレイヤーもターゲットになる。
狙われる側や。
「解散や」
即座に離れる。
これ以上一緒におるんは、リスクが高い。
現場。
第3の死体。
……酷い。
損傷が、異常や。
NPCがざわつく。
ゆるサンも、震えとる。
怯えた顔。
完全に、被害者側の演技。
……やのに。
見続ける。
ふと、
目が合う。
……なんやねん、その目。
笑っとるように見えた。
ー
……なんか、スッカスカやな。
こんなんで何か分かるんか?
確かに、うまく拾えてないね。
ここがゲームの中だからかも。
でも問題はないよ。
ほんまに??
これで分かるんか?
不安やねんけど。
説明しよか、ちゃんと?
というか、説明するわ。
解説パートや。
今回の参加人数はオレ含めて9人。
3人ヤられて、オレとゆるサンを除けば、残りは4人。
つまり、オレがヤられるか、他4人ヤられたら確定負け——そういう状況や。
シナリオ次第では全員狙われるわけやないんやけど……今回は違う。
ペースが異常や。
全員、殺る気やと仮定して動いた。
舞台は断崖絶壁の孤島に建つ、古い洋館ホテル。
部屋も階層も無駄に多くて、死角だらけや。
しかも、窓から屋根に出られる構造のせいで、仕掛けがアホほど複雑になりよる。
その上、この暴風雨や。引きが悪い、終わっとる。
こういう時、屋根で証拠探したりするんにNPCのサポートが必須やねん。
このゲーム、滑って落ちて事故死とか普通にあるからな。
で、あいつや。
見た目は着ぐるみやけど、中身の運動神経は「クマ」そのもの。
パワーも、モコモコの手に隠したえっぐい爪も、全部クマ基準や。
雨の屋根も余裕やし、吹き抜け飛び降りて階層スキップとかもしよる。
もちろん、毎回パワーでゴリ押すわけやない。
初期の頃は「人間にこれは無理や」っていう消去法が、ゆるサンの犯行を裏付ける決め手になっとった。
けど、100ゲーム超えたあたりから、あいつは「仕掛け」を使い始めた。
「自分は人間や」ってキャラ設定を徹底して、身体能力を封印しよるんや。
で、忘れた頃にこれや。
パワーを混ぜてきよる。
仕掛けでやったことを、あえてパワーに見せるような「こっすいハメ技」まで使いおる。
推理パートで読み違えたら、即詰みや。
……今回は、多分「クマ」の回や。
事件の頻度が、明らかに理屈を超えとる。
もちろん、全部仕掛けでやってる可能性もゼロやない。
どれもあり得る。決め手がない。
3人目の犠牲者が出た時点で、オレはまだ何一つ掴めてへん。
それだけは、嫌というほど分かっとった。
じゃあ、続きいく?
もう少し話す?
……あんた、ちゃんと考えながら聞いてる?
期待してるんやで?
頼むで?
な?
……まぁ、ほんでな。
探偵役のNPCがおんねん。
プレイヤーの同級生で、探偵の家系とかっていう設定の。
彼女役のNPCを連れてきたり、連れてこんかったり。
こいつは毎回、固定で参加する。
放っとくと、勝手に捜査や推理を進める。
オレが動かん場合、こいつが中間報告的な推理パートを開く。
ほぼ外れる、状況を悪くする。迷探偵さんや。
こいつに下手なこと言わさんように誘導すんのも、攻略に必要になる。
なんで、初期以降はただのお邪魔キャラでしかないんやけど、今回はやらせてみることにした。
藁にもすがるアレやな。
まぁ、そんくらい、行き詰まっとった。
メモ。
ログ欠損の原因は未確定。
仮説:
1. 対象世界が記録可能状態へ移行中。
2. 対象本人の終端が、停止状態に固定されている。
両要因の重複も考えられる。
以降の取得精度をもって検証。




